314 勇者の刃
やっと出したね。全力の、ブレイブ・ブレイド。力を溜めていたときから感じてた。攻撃を見て実感した。アレは魔王を滅ぼす一撃だ。
私は周囲に水を漂わせてから、飛来するブレイブ・ブレイドに向かって発射する。
「集中豪槍雨っ!」
放った水弾を密集した槍の雨に変え、ブレイブ・ブレイドを横殴りに打つ。
「ムダだ。全力で放ったブレイブ・ブレイドは、その程度じゃ止まらない」
冷めた口調でジャスが宣言したとおり、ブレイブ・ブレイドは一切の減衰もなく槍の雨を切り抜けて進んできた。
間違いなくやられる。そう言い切れちゃうぐらい凄い圧がある。もう、私の出番も終わりだね。けど。
水槽へと潜って攻撃から逃げる。全力で泳ぎながら後方を確認すると、水中だろうとお構いなしにブレイブ・ブレイドがついてきた。
「自動追尾の必殺剣だもんね。簡単に逃げられるはずもないか」
それでも抗って、全力で戦い抜く。アクア・タカハシは強敵だったって、少しでも記憶に残してもらわなくっちゃ。
水面に浮かぶ巨大な氷塊を、水の流れに乗せてブレイブ・ブレイドにぶつける。スパンと切り裂くだけ切り裂いて、衰える気配は微塵も感じない。
水中にトライデントを作っても、至る方向から水圧をかけてもなんのその。延々と迫り続け、私との距離が少しずつ縮んでくる。
勢いよく水面に向かって加速し、水飛沫を上げながら大きくジャンプする。弧を描きながら足場のない所へ飛び込む軌道を確保した。
上がった水飛沫ひとつひとつを槍に変え、ブレイブ・ブレイドを迎え撃つ。
足場では勇者一行が私を祈るように見上げていた。
向こうも必死そう。だけど今一番必死なのは私なんだから。
水面から飛び出してきたブレイブ・ブレイドは、設置した槍を弾きながら私を追ってくる。
着水し、水槽の奥へと潜りながら逃げる。
「私の全力じゃビクともしないや。王都ロンギングの時とは段違いの威力。それに、もうすぐ追いつかれちゃう」
敵わないことぐらいわかってた。でも最後まで戦う。勇者一行が私の弟妹達と戦ったときに、ちゃんと力を比べてくれるぐらいはしてほしから。
水中を旋回しながらブレイブ・ブレイドとの鬼ごっこを続ける。
逃げながらは終われない。せめて最後はみんなの見えるところで、正面からぶつかり合おう。
一際デカい氷塊を水圧で宙へと押し上げながら、もう一度ジャンプする。ブレイブ・ブレイドは真後ろから迫ってる。ここが、見せ場。
中空でターンをして、全ての足で逆さまに氷塊へと着地する。トライデントを片手に、腰を捻って、全ての足に力を溜める。
水面からブレイブ・ブレイドが飛び出してきた。勝負だ。
「カジキっ!」
全力で氷塊を蹴って、ブレイブ・ブレイドへ急降下しながらトライデントを伸ばした。




