311 雨の向こうへ
「大丈夫エリス? 顔、引きつってるよ」
「人のこと絞め上げながら脅しておいて、よくそんな口利けるわね」
アクアがアタシを見つめながら頬に手を添える。同時にイカ足で身体を締め付けるという器用なことをやってのける。ってか痛いから。痛いからぁ。
「このままじりじり嬲るのも一興なんだけど、人質使ってマウントとるのは趣味じゃないんだよね。だから」
アクアは視線を逸らし、睨みあげるジャスを眺めた。
「エリスは返すよ」
「なっ、どういう意味だ」
問いかける声は疑念で満ちていた。当然だ。手元に置いて有利に働く人質をわざわざ解放する理由がない。助かりたくはあるけど、不気味でしょうがない。
「文字通りだよ。だからちゃんと、エリスを受け止めてね」
ニコリとした笑顔に悪寒を感じた。
「それっ!」
「ぎゃぁぁぁぁ!」
勢いよく振り回されて視界が揺れる。コイツ、アタシをジャスたちに叩きつける気だ。ヤバい、床どっち? 天井は? あぁぁあ!
「エリス!」
凄い勢いで投げつけられたと思ったら、今度は必死に抱えられて。でも勢いが強いから全然止まらなくて。
「ジャス、エリス」
「無事かよオイっ!」
「ぐっ……ボクは平気だ。エリス!」
ボーっとする意識の端から聞こえてくる切羽詰まった声。正直このまま寝ちゃいたいけど、まだ途中なんだよね。なんの途中だっけ?
「ナイスキャッチ。続いてコレはどうかな」
アクアのはしゃいでる声が聞こえてくる。けどちょっと寂しそうな……そうだ。
「まだ、戦いの途中だ」
気合いを入れながら見渡すと、アタシ達の周囲に水飛沫が舞っていた。その飛沫ひとつひとつがトライデントになって、切っ先を向けられた。
あれ? 戦い、終わりそう? 絶体絶命なんだけど。
アタシ達を中心に、すり鉢状に包囲されている。
「槍雨」
「ワイズ、バフっ! ワシが突破口作るっ!」
「チクショウがっ、エアブラスト! ディフェンスマジックぅ!」
「うらぁぁぁぁあ!」
ワイズの風圧魔法が、トライデントの雨の一点を吹き飛ばす。
クミンはワイズから防御力の強化呪文を受けると、空いた一点に向かって大剣を振り回しながら突貫していった。
トライデントを弾いたり、その身に受けたりしながら突き進むクミン。その後ろに隠れるように、アタシ達が付いて進む。
コレって、クミンを盾にして槍の雨を突っ切ってるって事。
ジャスに抱かれながら眺めているだけなのが申し訳なくって、同時にクミンが物凄く逞しくって。あぁ、コレが勇者の連携なんだなって、震えるぐらい感じ取れて。
槍の雨が止んだ。傷だらけのクミンが肩で息をしながら大股開いて立っている。息絶え絶えなのに、力強くアクアを睨んでいた。
「どうだっ、みんな無事だぞこんちくしょうがっ!」
腹の底からの叫びを聞き、アクアが拍手しながら驚いていた。




