307 殺意の対象
「殺す気がなかったなら、なんでおとおさんは殺されてるのよっ!」
叫びながら矢を乱射するけれども、全てが水柱で弾かれる。
「あの時エフィーを殺さなかったら、私達のお父さんが殺されてたもん。大切な人は生きてるうちに守らなくっちゃ」
「ふざけんなぁ!」
とある属性を込めて放った矢は、床から噴出する水柱を突っ切ってアクアに迫った。驚きに目を見開きながらも、トライデントを振り回して矢を弾いてしまう。
「うわっと。驚いた。やっぱりおもしろいよエリスは。まさか水属性の矢を使ってくるなんて。水属性同士で反発しなかった分、攻撃が逸れなかったのかもね」
お返しとばかりに打ち込んでくる水弾を横に跳んで逃げながら矢を放つ。
「ホントはね、ここではエリスじゃなくてエフィーと戦う覚悟でいたんだよ。ちょっと予定が狂って楽しみ減っちゃったかなって思ってたんだけど、今はエリスと戦えてよかったって思ってる。何が飛び出るかわかんないんだもん」
「なんなのよっ! 何でそんなにおとおさんを買ってるのよっ! 魔王のくせにっ、人をたくさん殺してるくせにっ!」
アクアは足下が凍らされて動けない状況だってのに、簡単にアタシの矢を切り落とす。ジャスとクミンの剣も受け止めて、ワイズの魔法も水魔法で相殺して。
「凄い人は凄いし、大切な人は大切だよ。ソレでもって、どうでもいい人はどうでもいい」
アクアは隙を突いて足下の氷を割り、足を生かせるようにする。
「たしかに私は無差別なたくさんの人を殺したよ。恨みとか憎しみとか全くないと思う」
「つまりアクアはただ殺したって事かい? なんの理由もないのが一番理不尽なんだよ」
クミンの感情が込められた大剣を、アクアは軽く受け流す。
「人間だって魔物をたくさん殺すよ。動物だってそう。海と陸で隔てられているお魚だってたくさん殺す。何が違うの?」
「魔物は人を襲うし危険だろぉがよ。動物に至っては食う為だって割り切ってらぁ。食わなきゃ生きていけねぇかんな」
ワイズが波を発生させると、アクアも波を発生させて相殺する。
「じゃあ危険だったら、食っていく為だったら人間を殺しても大丈夫なんだね」
「いい訳がないだろう。生きている人間をなんだと思っているんだ」
ジャスの連続斬りを身の運びで躱すアクア。
「大きく括って動物かな。生きているって意味では、どれも変わらないはず」
「人間はっ! 動物のように単純じゃないっ!」
振り下ろした剣はトライデントの柄でキッチリ防御された。それでも力尽くで押し込む。
「大切な人を殺されれば憎しみが生まれる。憎しみは強い衝動になる。おまえはマリーを明らかな殺意を持って殺した。エフィーのような言い逃れはさせない!」
力で押し殺すという重圧を出しながら、ギリリと剣を押し込んでいく。
「言い逃れる気なんてないよ。アレだけは、殺しておかなきゃいけなかったから。さっきも言ったけど、守るなら生きてる人を。仇討ちなんてムダだから止めた方がいいよ」
「誰が殺したと思っているんだっ!」
怒り任せの叫びとは対照的に、ジャスは押し込んでいた力を緩めた。アクアの体勢が全面に緩むと、ボディに膝を入れる。
「ごほっ」
「うおぉぉぉ!」
雄叫びを上げながら、ジャスは剣で追撃をした。




