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俺が異世界で魔王になって勇者に討伐されるまで  作者: 幽霊配達員
第4章 海原のアクア
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306 罪の意識

 やられる。

 迫り来るトライデントを無防備に見上げていると、ジャスの背中が視界を遮った。

「させない。そのトライデントでだけは命を奪わせない」

 気迫に満ちた声。トライデントを弾かんと剣を振り上げる。

「なにっ!」

 トライデントは途中で水に戻った。水を剣で斬れるはずもなくジャスをびしょ濡れにする。

「ジャス、大丈夫?」

「……ヒール」

 ジャスは濡れた金色の髪からしずくを垂らしながら、アタシに向かって魔法をかけた。熱を持った脇腹の痛みが緩和する。

「大した嫌がらせだな。魔王アクア」

「無傷で防がれるよりマシかな程度なんだけどね。それにしても回復魔法は厄介だね。すぐに動けるようにやっちゃう」

 立ち上がり、弓を構えながら思う。

 痛みは消えたし余裕で動き回れると思う。まだ戦える。けど、疲れが取れるわけじゃない。コレが回復魔法。

 視界の端でワイズとクミンも立ち上がってる。身体中傷だらけだけど、思ったより浅そう。

「回復するまでもないバケモノと戦うには必要だからね。エリスもワイズもクミンも、ボク自身だって何度でも回復してみせるさ」

「どうりでさっきまともに入った鉄砲水のダメージを感じさせない動きなんだね。ワイズとクミンにも回復施したでしょ。羨ましいな」

 不意に、アクアの微笑みに陰りが落ちた。

「生きてる限りは大切な人を助けられるんでしょ」

 嫌な言い方。ジャスのことコケにしてるの?

「生きてる限りはな。死んでしまった命はやり直せない。ヴァッサー・ベスで奪ったたくさんの命の罪、そしてマリーの命を奪った罪、その身で償ってもらうぞ!」

 重い声色が、ドス黒い重圧が、殺意に満ちた眼差しがジャスの原動力になる。

 アクアへ向かって真正面から駆けるジャス。アクアは凍てついた右腕を力業で動かして武器をカチ合わせた。

「罪って何? 人ってなんで殺しちゃいけないの?」

「殺していいはずがないだろ。必死に働いて、家庭を育み、平和を喜ぶ。何気なくもかけがえない日常を、誰が奪っていいものか!」

 激しさを増す攻撃の嵐を、アクアは涼しい顔で流してゆく。

「じゃあ必死に働いてない、家庭を育んでない、そして平和を食い物にほくそ笑んでいる人は奪ってもいいの?」

「わかってないね。そのために罪があって、罰を受けさせるんじゃないか」

 ジャスが大きく退いたタイミングに合わせ、クミンが大剣を振り下ろす。アクアはトライデントの柄で受けるも、重い攻撃に足を踏ん張らせた。

「そうだね。けどその罪と罰って、ちゃんと機能してるのかな?」

「させるさ。テメェに心配させる筋合いねぇから、人間社会に首を突っ込まないでいただこうかねぇ。フリーズ!」

 ワイズが止まった足下に向かって氷魔法を放つ。床ごとアクアの足下を凍らせ、身動きを取れなくした。

「心配してるつもりはないよ。けど人間社会は腐りやすいからね。停滞していれば、停滞しているほど周りを巻き込んで腐っていく」

「うるさいっ! たいそうなこと言ってるけど、アンタ達がおとおさんを殺した罪も、アンタがマリー姫を殺した罪も消えないんだから」

 三本矢を番えて一斉に発射。三本全部に違う属性を纏わせた。動けないアクアに為す術はない。

「あー、エフィーの事はごめんね。エアも最初は殺す気なかったんだよ」

 床から間欠泉のように吹き上がる水圧が、三本の矢を打ち上げて無力化した。

「は?」

 今アクアは、なんって言ったの?

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