304 トライデント
「それじゃ今度は私からいくよ。それっ!」
アクアの周囲に無数の水玉が漂う。標的を定めたかのように一旦停止すると、後衛のアタシ達の方に勢いよく向かってきた。
威力はありそうだけど小さい。アタシでも最小限の動きで避けられる。
「逃げろエリス。反撃なんて考えんなっ!」
ワイズの叫びで、反射的に大きく飛び去る事を決める。
無数の小さな水玉は途中で全部トライデントへと変化をし、攻撃範囲と鋭さを増やして通り過ぎた。壁に深々と突き刺さる様が威力を物語っている。
「ちょっと、槍を矢みたいなノリで飛ばさないでよ」
「エリス前だ」
後方の槍に気をとられてた。ジャスの声に振り向くと、アクアが迫ってきていた。
「かわいい反応。ちょっといじめたくなっちゃうけど、焦らすのはよくないよねっ」
微笑みとは裏腹に、容赦のない攻撃性。急接近からの突きに反応できない。
「まず一人っ」
「させないよ」
アタシとアクアの間に、クミンが潜り込むように割って入った。トライデントを目がけて振り上げた大剣が、アクアのトライデントを宙に弾く。
「ジャスっ!」
「もらった」
無防備となったアクアに、ジャスが勢いと殺意を乗せてジャンプ切りで迫る。
アクアの足が完全に止まってる。武器も手元にない。決まる。
「それはまともに食らえないな」
アクアは手元に水を発生させると、トライデントへと形を変えた。両手で握ってジャスへと突き出し、柄でジャスの剣を受け止める。
「なにっ!」
「あんた何本トライデント出せるのよっ!」
「私の魔力が続く限り何本でも。けど尽きたことがないからほぼ無限かもね。それとジャスは隙だらけだよっ!」
ジャスが中空で留まっているところを、アクアが横から鉄砲水を浴びせる。
勢いよく床に叩きつけられ、叫びながらのたうち回るジャス。
「ちょっと呆気ないかな。けどもう決めちゃおっか」
「ヤらせっかよ。ファイアボール!」
「敵はジャス一人じゃないんだよ!」
魔法と大剣の挟撃。アクアはとっさに二本目のトライデントを作り、片方でファイアボールを切り、もう片方で大剣を突いて相殺を図った。
「おいおい、そいつは」
「いくら何でも強気が過ぎるよ」
「冷っ、ヤバっ!」
斬ったファイアボールは氷属性のフェイント弾だったみたいで、トライデントごとアクアに氷が侵食する。
対して反対側のトライデントはあっさり大剣に負け、武器ごとアクアが吹き飛ばされた。ここチャンスだよね。
「当たれぇ!」
とっさに選んだ木属性の矢を作り出し、アクアへ向かって連射した。
「まだだよっ」
凍ってない方の手でトライデントを回転させて防御する。弾かれちゃったけどいい。アクアを狙った矢はフェイントで、本命は床に刺さった方だから。
矢が刺さった所から植物のツタが伸び、アクアに迫る。アタシの即席木属性魔法だよ。
アタシのツタが、トライデントごとアクアの身体を捕らえた。




