303 真正面からの不意打ちを
「まずは開幕挨拶といくかい。ファイアボール」
アクアを相手にファイアボール? さすがに相性悪すぎじゃないの。
「そんな魔法すぐに消しちゃうんだから。それっ」
アクアがトライデントを振り上げると床から波が発生し、アタシ達に襲いかかってくる。燃えさかる火球なんて簡単に飲み込まれちゃうよ。
逃げる心構えをしていたら、ワイズ達の口角が上がった。
火球は波に衝突すると、あろう事か波を氷漬けにしてしまった。
「えっ嘘っ!」
驚愕しているアクアに、ジャスとクミンが急接近。とっさにトライデントを構えるアクアだけど、防戦一方まで押し込んでいる。
けど、なんで凍るのよ。
「おもしろいぐらい技名と見てくれに騙されてくれたな。アレ、炎と氷の混合魔法なんだぜ。って言っても、炎1%に氷99%の代物だけどな」
「はぁ! いくら何でも嘘つきすぎでしょ」
「一応ちょびっとはファイアボールしてんだぜ。表面が燃えてる程度だけどな。エリスも今の覚えとけよ。魔法は応用がいくらでも効くんだかんな」
アタシに今の真似事が出来るようになれって事? いやいやペテンが過ぎるじゃないの。
「レクチャーはこれくらいにして、ジャス達の援護すっぞ。優勢ではあるけど押し切れてねぇかんな!」
ワイズが杖を振るうと、火球がアクアに向かって飛んでいった。クミンの大振りをバックステップで躱した瞬間に合わさる。
凄い。タイミングが完璧。いくらアクアでも避けられないでしょ。
「さすがは勇者の魔法使い。ワイズは嫌らしい攻撃が得意だねっと!」
トライデントを大振りしながら火球を切り裂き、勢いのまま斬り掛かるジャスの剣を叩きつける。
今のを捌くなんて。
ジャスの剣が押し返されたタイミングを、クミンがカバーしながら横振りに斬り掛かる。
アクアは大きく後転しながら、水圧弾をジャスたちに放った。難なく回避したけど、距離が空いてしまう。
「ワイズ達は退屈させちゃってるよね。ちょっとは歓迎しなくっちゃ!」
アクアは周囲に水を纏わせると、踊り子のようにグルリと舞う。激しい水の流れは回転の勢いに乗り。大回りに渦を描きながらアタシ達に襲いかかってきた。
「エリス前だ。オレ達への気遣いなんて無用だっての!」
側面から襲いかかってくる激流を前へ跳ぶことでやり過ごす。避けたはいいけど、後衛のアタシ達が自分から近付かされた。
「このっ、お返しよ」
勢い任せに矢を放つも、トライデントで簡単に切り落とされる。
「筋はいいけどまっすぐすぎかな。まぁ最初の騙し討ちは焦ったけどね」
アクアの微笑む様を見るに、まだまだ余裕って感じ。
「よく言うぜ。城そのものに雷属性で自滅するトラップを仕掛けておいてよぉ。騙し合いの方が好みなんじゃねぇのか」
ワイズが皮肉を返す。するとアクアは首を傾げた。
「私のお城ってそんな効力持ってたの?」
って、え?
「何しらばくれてんだよ。水属性の材質で作られた城だ。雷なんて撃った日には無条件で感電待ったなしだろうが」
「へー。水属性を前面に出すように建てた方が私らしいってフォーレがアドバイスしてくれたからそうしたけど、たぶんフォーレはトラップありきで口添えしてくれたんだろうな」
なんだろう。会話がどこかズレてる。アクアの毒気を抜かれる反応はもしかして、本当に狙いなんてなく城を作っただけなんじゃ。
ワイズのしたり顔がだんだん微妙な表情に変化してゆく。
ひょっとしてアクアって、本当に純粋なのかも。




