301 サメェェェェェ
激流から次々に出てくる魔物を撃退しながら小部屋を出る。また螺旋階段が上へ続いていて、次の小部屋まで伸びていた。
「この城けっこう高かったわよね。後どれだけ小部屋があるのかねえ」
「めんどくせー城だこった。単純に登るのがしんどい」
クミンとワイズが気怠げにグチを漏らし合う。アタシだってうへーな気分よ。
「それでも登る他ない。最上階に魔王アクアが待っているのならね」
ジャスの気合いがパーティに伝播し、活力へと変化する。
次の小部屋は床一面が網状の足場になっていて、その下全面に激流が流れていた。
迫力だけあるこけおどしだと最初は思った。だって魔物が飛び出てくる隙間がないもの。
そう油断していたら網の隙間から細長い無数の触手が伸びてきた。完全に不意を突かれて、捉えられそうになったところをクミンに助けられる。
「触手プレイはお断りだよ!」
大剣で叩き切られた触手に安堵してから足下を観察すると、激流の底にイソギンチャクのような魔物がへばり付いていた。
趣味が悪すぎてシャレにならないわ。
早々に小部屋を抜けて、階段を上り、また次の小部屋へ。
一定時間ごとに水槽の扉が開いて鉄砲水が発射され、また一定時間経ったら扉が閉じて水が流れなくなる小部屋。
橋はかかっているものの、トビウオのような魔物が橋の上まで飛び交っている小部屋。
三本の激流が横切っている、単純に数が増えただけの小部屋。
傾斜が付いていて、滑りやすい足場の小部屋などなど、仕掛けが豊かでだんだん遊ばれている気分になってくる。
「小賢しいのが多くて疲れるんだけど。次の小部屋は一体どんなよ!」
「先走っちゃダメだエリス」
ジャスの制止も聞かずにアタシは小部屋のドアを蹴破って突入する。
一番最初に見た、シンプルな作りの激流が横切っていた。違うのは魔物が一切いないところかな。
「……何よネタ切れ。ムダに小部屋を作るからこんなことになるのよ」
悪口を言いながら激流を飛び越えようとしたところ、後ろから羽交い締めにされた。
「ちょっワイズ、何す……」
振り向いて文句を言おうとしたところで、盛大な水しぶきが跳ねる。
巨大なサメが激流にのって跳んでいた。止められなかったアタシ、一口でパクンチョされていた。
「今のは勇み足ってヤツだぜエリス。だがおかげで不意の一撃をやり過ごせた」
サメは激流に身を任せ、アクアリウムから海へと落ちてゆく。
過ぎてみれば間抜けな最後だわ。
「ありがとうワイズ。先に進みましょ」
もう油断なんてするもんか。まずは無事にアクアリウムを登り切ってやる。
それから小賢しい小部屋を二つ抜け、魔王アクアの元へ向かう。
それにしても高い水槽だわ。結構登ってきたのにまだ果てが見えな……い?
「ねえみんな。アレって、ひょっとして」
水槽を指差し促すと、先程落ちていった巨大なサメが悠々と泳ぎながら登ってきていた。
「サメェェェェッ!」
アレさっきと同個体よね。って事はこの水槽、海と直接繋がってる。海に落ちてもセルフで戻ってくるって事。
「なんか凄く頭にくるじゃない。上等よ、次の小部屋で叩き切ってやろうじゃないの!」
クミンが大剣を掲げ、怒り任せに宣言したわ。




