300 水槽の灯台
海蛇を撃沈させてからの船旅は順調だったわ。
船の停泊をどうするんだろうって思ったけど、おあつらえ向きに港があったから驚いた。
見たことない水色の建材で、ジャス曰く魔王アクアの魔力で作り出された魔材らしい。
つま先で突いてみた感じ、かなり頑丈そう。
見上げてみると、塔の至る所から大量の水が海へと流れ落ちている。留まることを知らない、無尽蔵な水量ね。
これだけの水を生み出せる、バカげた魔力量をアクアは持っている。
信頼できないけど船の守備を冒険者達に任せて、アタシ達は塔の中へと乗り込んだ。
扉を開けて真っ先に映ったのは、水魚系の魔物の群れだった。城の中央で悠々と泳ぎ回っている。
「また大群だねえ。けど、見世物以上の効果はないんじゃないかい」
クミンが呆然と眺めながら、言葉を漏らした。ワイズは無防備に近付くと、手のひらをつけて見上げる。
「アクアリウムねぇ。随分と安直な名前じゃねえの」
アタシ達と魔物達の間は、分厚いガラスの壁で隔てられている。
城の中央にあったのは巨大な円柱状の水槽。どこまでも高くて広い。
「みんな、用心してかかろう。これほどの魔物がいるんだ。ただの飾りなはずがない」
ジャスの警戒にみんなして頷きを返す。城の内壁に沿って螺旋階段が伸びていて、上階の部屋のドアまで続いている。
上っている間に拍子抜けするほど平和で、敵なんてあの水槽から出てこれないんじゃないかと思わせるくらいだ。
「そうだエリス。雷の矢は当分禁止な」
「なんでよ。敵みんな水性の魔物じゃない。一番効率的で確実な気がするんだけど」
「城そのものが水属性で出来てんだよ。雷なんて使ったら一発でこっちも感電しちまうぞ」
「うそっ」
中央の水槽に水色の壁や床を見渡してみる。冗談でしょ。
「属性そのものを前面に出すことで弱点を強制的に制限してやがる。狙ってやってんのかそうじゃねぇのか知らねぇが、厄介な魔王城だぜ」
恨めしげなワイズの表情で、嫌でも雷属性を使えない事が理解できてしまう。
「魔法属性の方針は固まったかい。それじゃ、部屋に乗り込むよ」
ジャスを先頭に、小部屋へと乗り込んだ。
「そういうことね。この小部屋は何ヶ所あるんだい」
クミンが大検を構えながら吐き捨てた。
小部屋の真ん中を、水槽から外へ向かって急流が遮っている。幸いにも水路のような窪みを流れているから直接外へ押し出されることはない。けど結構な幅と、それから深さもありそう。
奥の扉へ向かうには水流を跳び越えるしかない。
「んで、厄介なのは急流だけじゃねぇってか」
流れる急流から魚型の魔物が飛び跳ねていた。タイミングが悪いと体当たりを直に受け、激流に落とされる危険もある。
他にはサハギンが飛び出てきたり、小型のイカやタコも這って出たりしている。
「みんな、気を引き締めていくぞ。強行突破だ!」
ジャスの号令に、アタシ達は雄叫びで返した。




