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俺が異世界で魔王になって勇者に討伐されるまで  作者: 幽霊配達員
第1章 スローライフ魔王城
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2 落ちたら幼女に拾われました

「うわぁぁぁ!」

 心臓が身体の中で浮いているような浮遊感を受けながら落ちていると、やがて視界が開けてくる。真下に森があること以外わからない。観察する余裕がなかった。

 落ちたら死ぬっ。死ぬっ!

 落下の終わりに待っているのは、逃れようのない破裂だろう。卵を落として黄身が飛び散るのと一緒だ。じたばたと手足を動かすけれども、落下は全然止まらない。

 やがてガサゴソと葉っぱや枝に身体を打ちつけながら、地面にボスっと落ちた。

「わぁぁぁ死んだ! 俺絶対死んだ! うわぁぁぁ!」

 むき出しの大地の上にで、手足をじたばたさせながらのたうち回る。

「お前は何をやっているの?」

「わぁぁ! 女神のようなかわいい声が聞こえた! きっと天国へと連れて行かれるんだ。地獄じゃなくてよかったような……でもやっぱり死んだんだ。うあぁぁ!」

「落ち着きなさい。騒がしいわ」

 寝転がっているっていうのに、頬をペチンって音が鳴るぐらい強く叩かれた。

「あ()っ。って、あれ? 俺、生きてる?」

 叩かれた頬に手を添えつつ、ローアングルから少女を見上げた。暗く影になっていて見えにくいが、瞳がルビーのように赤く輝いていた。

「大の男のくせにわーわー(わめ)いて、ひどい声音のせいで耳が奥まで腐るかと思ったわ」

 蔑むように見下ろす視線に、身体がブルリと反応した。やべっ、癖になっちゃうかも。

「あー、すまん。歩いてたら急に落下したもんだからな。何言ってるかわかんねぇかもしれねぇけど、俺も混乱してんだ」

 一度言ってみたかったセリフを、本音で言うときがくるとは思わなかったけどな。銀色の電柱頭はよくもまぁ、わけわかんないことを説明しようとしたもんだよ。

 気を改めて見上げると、かなり近いところに少女がいた。黒いワンピースをほぼ真下から見上げるもんだから、アリガタヤーな景色を眺めさせて頂いております。はい。

「で、あなたはいつまでうじ虫のように這いつくばっているのかしら? 性根も随分と(いや)しいようすですし」

 しっかりとバレている感じだ。慌てて立ち上がって、パッパと服についた砂を払う。

「って、あれ? 思ったよりお嬢ちゃんだな。こんなところで何してるんだ?」

 改めて見ると幼女と分類していいほどの背の低さだ。金色のボブカットはサラサラで、一本一本が艶めいている。鼻がちょこんとしていて、頬は餅のようにプニプニしていそうだ。ぜひとも摘まんで確かめたい。唇は妖しくピンクにテカっていた。

 ワンピースも露出が高めで、鎖骨なんてなめまわして見てねって言わんばかりに見せつけてくれる。服の高さもギリギリ胸が隠れる程度なのがグッドだ。手を挙げれば脇が眺められるだろう。できれば下から眺めたいところだ。

 白く細い手足はやらかく肉づき、頬に負けず劣らずプニっとしているだろう。

 ただ気になるのは耳らへんについている、羊のようにカールした角だな。黒く輝いているが、まぁコスプレかなんかだろう。かわいさが際立っているし、似合っているのでノープログレムだ。

「私はただの散歩よ。空から人間が落ちてきたものだから気になって来てみたけど、さえない男だったから内心ガッカリしているわ」

「内心が思いっきり表にでてるぞ」

 俺の指摘なんてものともせずに、幼女はため息をついた。礼儀がなっていないが、俺に対する接し方としては合格ラインだ。実際さえないのは事実だからな。

「まぁ、いいや。ところでここはどこだ……って、ホントにどこなんだ?」

 なんとなく口走ってから周囲を眺めてみたが、確認するとかなりおかしなことになっていた。

 いきなり森にいるやら、気味の悪い木がたくさん生えていることやら、地面に枯葉が落ちていたり根っこが盛り上がったりしているのやら、さっきまでいた都会のビル街はどこに消えたやら、そんなことはどうでもよかった。

 空がドロドロした青紫色なのがそもそも異常である。そして月が二つある。黒い月と赤い月だ。

「ここはお父様である魔王アスモデウスの領地よ。一般の人間がくることなんて滅多にないわ。危険だもの」

 なんかサラっとRPGみたいな、それもかなり終盤に訪れる場所のことを聞いた気がするぞ。いや落ち着け。俺の耳がいかれただけかもしれん。

「ちなみに森を抜ければすぐに魔王城があるわ。あなたのことをどうするか決めなければいけないし、さっそく案内するわ」

「ちょ、ちょっと待って。そうなると俺、どうなっちゃうのかな?」

 一難去ってまた一難みたいな状況になっているんだけど。そもそも、落下して生きてる理由もわかんないし。さえない命だけど捨てたいとは思ってないからな。

「最悪で、即殺でしょうね」

 冷たく微笑む幼女がとても嬉しそうで、身体がブルリと震えちまう。今はまだシャレですんでいるから楽しめるけど、本気でヤバいよ。

「くすっ。あなたおもしろい反応するわね。害もないみたいだし、私のオモチャになるなら助けてあげてもいいわよ」

 とても危険な誘惑だということはすぐに分かった。俺にも人としての矜持(きょうじ)があるし、大人の男としての威厳もある。お願いしますと頷けば、きっと死んだ方が遥かにマシな未来が待っているんだろう。ここは自分の意思をしっかり持って言い放ってやる。

「助けてくださいお願いします」

 悪いロボットを作って世界征服を企む土下座の名人をイメージして、迷うことなくジャンピング土下座で命乞いをしてやったぜ。

「あなたにプライドはないの? まぁいいけど」

 幼女の言葉はうろたえたように震えていた。戸惑った声もかわいいじゃないか。

「ありがとうございます」

 二つの意味で感謝した。我ながら、とあるギャンブル漫画が如きの圧倒的な感謝っぷりである。

「どうしてしまおうかしら。あぁ、それとあなた名前は? 今まではすぐに殺すと思っていたから聞かなかったけど、オモチャにするなら呼び名があった方がいいものね」

「高橋浩一と申します」

 土下座したまま高らかと宣言する。文章的におかしい気がするが、それくらい堂々と名乗った。

「タカハシ、変わった名ね」

「あっ、高橋は名字で、名前は浩一です」

 顔をあげて、見上げながら間違いを訂正する。下から見上げると幼女に見えないから不思議だ。遠近法ってやつだろうな。

「コーイチね。どちらにしても変わっているわ。私はチェル。覚えておきなさい」

「はい! チェル様」

 期待に満ちた目で見上げると、チェルはやれやれといった風に手で頭を押さえて横に振ったのだった。


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