298 海上の守護者
「ぎゃぁぁぁあ!」
「おぉおぉ、断末魔のような雄叫びじゃねぇか」
「どう考えても断末魔だねえ。船尾の冒険者がやられたんでしょ」
次々に襲いかかってくるサハギン共を軽くいなしながら、ワイズとクミンが軽口を叩く。
薄情な会話に苦笑しちゃう。まぁあいつら、あんまりいい印象なかったし。
「けどマズいんじゃないの。船尾の防御が薄くなっちゃうわ」
「まだ全滅したわけじゃないだろう。元より危険が伴う強攻策、多少の犠牲は想定内だよ」
何気なく出たジャスの言葉が妙に冷たい。戦場での、それも目の行き届かないところでの命を完全に切り離してるみたい。
「あいつらがやられるのはまぁいいんだけど。船の防衛が不安だな。ジャスとクミンで側面固めてくれや。オレとエリスで正面抑えっからよぉ」
「ワイズも足を動かしてもいいんだよ」
「予感がすんだよ。オレは正面のマークを外せねぇ」
クミンが茶々を入れるも、ワイズは茶色い視線で正面を見据えながらマジメに返す。
「ワイズを任せたよエリス。こういう時のワイズは鋭いからね」
「えっ、ジャス?」
困惑してジャスに視線を向けるんだけど、船の側面へ走り去った後だった。
「頼んだよエリス。しっかりワイズのケツ拭いてやりな」
クミンも反対側の側面へ走り去っていく。
アタシ、任されたの?
襲い来るサハギンを射落としながら、重くなってゆく重圧を感じる。
波に揺れる甲板のように心がゆらゆらとして、足下が定まらなくなってくる。ちょっと曇ってきたかな、視界も暗く感じてきた。
「落ち着けエリス」
一言でハッと視界が広がっていく。晴天はどこまでも青かった。
「おまえはオレの背中さえ守ってくれりゃいいんだよ。正面全部叩き潰してやっからよ」
自信に満ちた微笑み、頼もしい横顔で身体が軽くなっていく。
「雷の矢は強いけど感電する危険があっからよ、跳んでる瞬間のヤツだけにしろ。他は炎とか氷で充分だ」
属性の扱いに長けた一流魔法使いからのアドバイス。
そっか、強いだけで選んじゃダメなんだ。
「わかった。ガンガン射落としてくからね」
「その意気だ」
凄い。ワイズと一緒にいるととても戦いやすい。安心感が違う。ソレでもって、アタシも戦えてる。
勢いに乗ってサハギンを駆逐しながら船は進む。
近付いて高く見える魔王城アクアリウム。もうちょっとで乗り込める。
希望が大きくなってきたところで、突如上がった巨大な水柱が視界を遮った。
「きゃ、何?」
アクアリウムを守るように立ち塞がったのは。巨大な水蛇のような魔物。獰猛な顔は、乗ってる船ぐらい大きく見える。鱗に覆われた体表は細長くて、うねるように半分ぐらい海面に浮上してる。
海蛇が天を仰いで叫ぶと、大津波が発生した。
「ちょっ、嘘でしょ!」
こんな海上であんな大津波、こんな船なんか一撃で沈んじゃうよ。




