295 魔力の使い方
ジャスとクミンが船の都合をつける為に領主の元へ向かっている中、アタシは調子悪そうなワイズに連れられて昼食を食べに出ていた。
折角だからとワイズは、魚の入った箱を肩に担いでいる。
ジュンは一人で家に帰している。ショックは大きいだろうけど、足取りはシッカリしてたから大丈夫だと思う。
木造のこぢんまりとしたお店へ入る。テーブル席が三つにカウンター席が五つ。むき出しの柱からはやや年期を感じられる。
ちょっと時間が遅いせいか、ガラリとしていた。
浅黒い肌をした小太りなおばさんが迎えてくれる。
「いらっしゃい。何人だい」
「ふたりだおばちゃん。魚の持ち込みはできるかい。テキトーに見繕ってくれ」
ワイズが箱を床に置いて開ける。冷気が漏れる様をおばさんが驚きながら確認する。
「あら、新鮮ないい魚だね。冷たく保存されてるし。あんた、コレ捌けるかい」
カウウターの向こうにいる大将に言葉を投げかけると、気前のいい返事が返ってくる。
「魚だったらなんだって大丈夫だ。にいちゃん。どれを食うんだ」
「種類は詳しくねぇからテキトーに四匹ほど。残りの魚も受け取ってくれると嬉しい。釣ったはいいけど捌き方しんねぇからもったいなくてな」
「太っ腹なにいちゃんだ。がそういうことなら預からせてもらうよ。ささっ、座って座って」
「んじゃ、よろしく。エリスも座ろうぜ」
ワイズと二人、向かい合ってテーブル席に着く。料理を待つまでの間の沈黙が気まずい。
「ところでよぉエリス。魔法は使えねぇのか」
テーブルに腕を付き、乗り出しながら聞いてくる。
「何よ急に」
「矢は魔法で作り出してんだろ。だったら攻撃魔法はどうなんだろうなって思ってよ。使えると戦いの幅が広がるぜ」
マウントでもとってきてるのかしら。矢を番えたまま殆ど何もできなかったアタシに対して、ワイズはド派手な魔法で一気に戦況をひっくり返した。
確かにアタシは役に立たなかった。けどソレを上からネチネチ言われると腹が立つんだけど。
「そんな怖い顔すんなって。別に上級魔法を覚えろって言ってるわけでも、下級魔法で牽制しろって戦い方を押し付けてぇ訳でもねぇんだ」
苦笑しながら諭される。不満が思いっきり顔に出ちゃってたみたい。
「じゃあなんだってのよ」
「矢そのものに属性を付与できないかって相談だ。エルフなんだし魔力はあんだろ」
お茶目にウインクされると神経を逆撫でられた気分になる。けど考えたことなかった。
攻撃魔法は使えなくないけど、集中するのがどうも苦手なのよね。魔力の流れとか感じるのに手間取っちゃうし。矢を模るだけなら苦でもないんだけど。
今度試してみようかしら。
「ジャスもやる気が空回りして暴走気味だけど、それでも今日中に船を用意しちまうだろうな。だから明日はアクアリウムに攻め込むぜ」
今度試そうだなんて悠長なこと言ってられないって事?
「テメェで言って付いてきたんだ。覚悟を決めて強くなれよ。オレ達はきっと、気休めなアドバイスしかできねぇかんな」
苦笑いと共に言い捨てられる。もどかしそうなニュアンスが妙に印象的。
「はいよ、おまちどおさま。魚の箱は帰りに返すよ」
「うひょぉ。うまそぉなメシだ。ありがとよおばちゃん。エリス食おうぜ」
魚料理をおいしくいただきながら、飛び込んだ戦場の厳しさを痛感する。
明日こそ、ちゃんと戦えるようにならなくっちゃ。あの魔王アクアと。




