292 高火力の一撃
振り上げられた巨大なタコ足。逃げなきゃ。でもジュンがすぐソコに、いやアタシ一人でも逃げれなっ。
こっちが迷ってるっていうのにタコは待ってくれない。やられる。
「エアブレイド!」
凄まじい風か吹き抜け、野太いタコ足が横一線に斬れ落ちる。
「えっ、何っ?」
「ったくよぉ。人が体調悪くしてるときに暴れまわんじゃねぇっての。頭痛てぇ」
振り向くと、杖を支えに頭を抱えているワイズが遠くにいた。
「ワイズ、助かった。そのまま焼けないか」
「人使いが荒い勇者様だなぁおい。後でたっぷり労いやがれよ」
「ワイズの二日酔いは自業自得じゃないかい。まっ、あのタコ仕留めたら飲みに付き合ってやろうかね」
「今のオレに酒勧めんじゃねぇってのぉ!」
なんだろう。ワイズが駆けつけただけで場が明るくなった。ジャスとクミンも動きにキレが出始めてる。これが、仲間。
けどタコも黙っていない。一本足を切り落とされて怒ってる。赤い身体を更に赤く染め上げて、乱雑にタコ足を振り回しだした。
「動きは速くなったな。けど」
「軌道が単純だねぇ」
縦横無尽にしなるタコ足を難なく捌いてる。
「おいおい妬けるじゃねぇか、ジャスとクミンにばかり構ってよぉ。オレにも注目しろっての。トップインフィルノ!」
ワイズが杖をかざすと、高速の炎弾がタコへと迫った。被弾した瞬間、爆煙を上げてタコを炎上させる。
飛び散るタコの残骸。焼けただれる臭い。圧倒的な高火力。コレが勇者の魔法使い。
「大型の魔物はオレの的でしかねぇぜ。周囲の被害を気にせずにぶっ放せる環境が整ってればオレは最強だぜ」
青い顔をしながらドヤってるけど、ひょっとしてかなり身体に負担がかかってるんじゃ。
「さすがはワイズだ。けど当分お酒禁止ね」
「なっ!」
「体調崩しながら高火力魔法はなって、症状悪化させてるんじゃねぇ」
「そりゃねぇぜ」
げっそりしてるワイズを二人が笑ってる。本来ならあのタコ、余裕だったんだ。アタシ達さえいなければ。
タコスミを浴びて呆然と座り込んでるジュンを尻目に、勇者という高見の遠さを考えさせられた。
「さて、いったんみんなで宿に戻っか。寝込みたい気分だが、話を聞かなきゃならなそうだかんな」




