291 真っ暗な視界
「お姉さんが魔物に乗ってる……魔物がお姉さんを守ってる……」
「ジュンっ! シッカリしなさいよジュン」
アタシが呼びかけても呆然と立ち尽くして動かない。そりゃショックは大きかっただろうけど、今はそれどころじゃないのよ。
アタシとジュンは巨大なタコから一番離れているし、間にジャスとクミンもいる。けどあのクネクネした足、どこまでも伸びてきそうで怖い。
「エリス。まず自身を、そして次にその子を守るんだ」
ジャスが剣を構えながら、背中越しに指示をしてくれた。
矢を番え、態勢を万全に。ジュンが自分で逃げられたらよかったんだけど、こうなったら守り抜くしかない。下手に背中を見せたくもないもん。始まった!
まず一本の足が振り下ろされる。ジャスとクミンは左右へ分かれて跳びんだ事で、タコの足は砂浜に打ち付けられた。
砂が勢いよく舞い上がってる。どれだけ勢いついたらあぁなるのよ。
タコはウネウネと進行しながら、左右にいる二人に攻撃の足を一本ずつ伸ばしてる。デカいわりに器用な動きするじゃないの。
「なかなか勢いあるじゃない。けど攻撃の手が単純だよ」
クミンが横薙ぎに払われる足を跳んで回避しつつ、大剣を振るう。
「ちっ、デカすぎて一刀両断とはいかないかい。って足癖悪いね、二本に増やすんじゃないよ!」
タコ足の追加。ジャスの方にもおかわりの足がいってる。しなるタコ足は一撃一撃が強力で、まともに受けたら一溜まりもなさそう。
おまけに手数が増えて反撃の隙も少なくなってる。
「速いし威力もあるけど、動きは単純だ。問題があるとすれば、デカくて刃が通りにくいところか」
ジャスも躱す間際に剣で切りつけてる。けど軽い切り傷をつけるのがやっとみたい。
けど左右を同時に攻撃するのって複雑で難しいよね。正面がら空きなんじゃない。
まずは視界を奪う。大きくてつぶらな瞳、射貫かせてもらうよ。
ビィィんと弦の音を残し、矢が飛来していく。決まって。
タコは残っている足の一本を振り上げると、矢を宙へと叩き飛ばした。
「ちょっと、どこまで器用なのよ」
「来るよエリス!」
「なっ!」
タコが反撃とばかりに、口から黒い球体を吐き出してきた。そんな遠距離攻撃を持ってるなんて聞いてないんだけど。
「けどそんな攻撃なんて、簡単に射落とせるんだから」
二の矢を番えて速射。寸分のブレもなく矢が黒い球体に命中。
「はっ?」
「あっ、わぁぁぁぁ」
球体が弾けた。黒の液体が視界いっぱいに広がり、アタシとジュンに降りかかってくる。
「エリス」
どうすることもできず、思うがままに浴びてしまう。粘っこくて生臭いけど、痛みとかは感じない。
「ぶえっ、ぺっ。何よこれ。嫌がらせもいいところじゃない。気持ち悪っ」
「エリス逃げろっ!」
えっ?
タコスミを拭って見渡すと、タコの足がアタシ達に迫っていた。




