290 餞別の種
緑色の御守りが砂浜に落ちる。
外した。けどいい線いってた。
「新しい仲間を率いてるのに、いい連携するよね。ちょっと手加減要求していいかな」
「散々好き勝手やっておいて、今更情けなんてかけるとでも」
「このチャンスは逃さない。一気にケリをつけさせてもらうよ」
ジャスとクミンが怒濤の連係攻撃でアクアを押す。魔法を放てないよう、距離を詰めているのが効いてるみたい。
アクアの強さも本物だよ。二人の猛攻を一人で裁いてるんだもん。けど最後に物を言うのは、剣に込められた想いだ。
クミンの振り上げた大剣が、アクアのトライデントを宙に弾く。
「あっ、しまっ……」
「トドメだ!」
ジャスが剣を振り上げる。アクアは防御しようとするけど間に合いっこない。仮に間に合ってもクミンが次の一撃を待機してるからソレで終わりだ。
勝利を確信した瞬間、砂浜から急にツタが伸びて、二人の剣が絡め取られた。
「えっ?」
アタシだけじゃない。この場にいる全員の驚きが重なった。って、アクアまで驚いてるのはどうしてよ。
「アクアの事だからぁ、退き際を失っちゃう予感はしてたんだよねぇ」
ツタの出所からのんびりした声が聞こえてきた。砂浜が盛り上がり、ボサついた緑髪の頭から花が生えている少女が現れる。
「なっ、魔王フォーレ!」
「フォーレ、どうしてここに?」
「アタイはフォーレとはちょっと違うよぉ。ほらぁ、ここ見てよぉ」
フォーレが頭の上を指さす。この前見たときと違いピンクのパンジーが咲いていた。
「本物と違うでしょぉ。アタイは模倣品だよぉ。種を植えると急成長して戦えるようになるのぉ。力はオリジナルと同等だけどぉ、単純な行動しかできなぁい」
フォーレの足下には緑の御守りが落ちている。もしも話が本当なら、あの中にフォーレの種が入っていた事になる。
「強いて名乗るならコピーフォーレかなぁ。後はアタイが引き受けるからぁ、アクアは退いてぇ」
「でも、それじゃフォーレが」
「大丈夫ぅ。アタイは元より使い捨てだからねぇ、寿命が短いんだぁ。痛みは感じないようになってるしぃ、恐怖に対する感覚も薄いよぉ」
「でもっ」
「いいからぁ。たった一度の役目ぐらぁい、シッカリ果たさせてよぉ。じゃないとアタイを寄越したオリジナルが無能になっちゃうからぁ」
必死に言い募っていたアクアだったけど、コピーフォーレの断固たる微笑みに決断をする。
「ごめんフォーレ、ありがとう!」
捨て台詞を吐きながら、背中を見せて海へと走る。ジャスとクミンはまだツタを解けない。
「エリスっ。フォーレを射貫いて、早くっ!」
呆然としていた。アタシはなんの為にいたのよ。クミンに言われるまで攻撃できなかっただなんて。
「あっ、やられちゃったぁ」
反射的に矢を放つと、フォーレは呆気なく背中から貫かれた。間の抜けた断末魔を呟きながら崩れ落ちる。同時に剣に絡まるツタが緩んだ。
「逃がすかっ!」
ジャスがアクアに迫ろうとするも、海から巨大な赤いタコ型の魔物が飛び出しては進路を塞いだ。
「ちぃ!」
「ここは任せたよオクトパス。勇者ジャス、私のお城、アクアリウムで待ってるからね」
アクアは海に飛び込むと、巨大なサメ型魔物の背に乗って手を振る。速い。すぐに見えなくなった。
「まったく、仕留められないどころか、厄介なのまで残されちまったよ」
うごめく吸盤のついた八本の足。丸くでっかい頭。つぶらな瞳。オクトパスは立ち塞ぐように砂浜に陣取っていた。




