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俺が異世界で魔王になって勇者に討伐されるまで  作者: 幽霊配達員
第4章 海原のアクア
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284 生まれ出でる憎しみ

 幻滅した。ワイズもクミンも。ヴァッサー・ベスまで戦いに赴いたっていうのに、あんなにだらしなくベロンベロンに酔うだなんて。

「もー。今この瞬間に魔物の襲撃があったらどうするつもりなの」

 酒盛りしてから宿で一泊。ワイズは二日酔いで動けなくなっていた。

 クミンはケロっとしているあたりさすがだけれども、バカ騒ぎしていたことには違いないもん。

 ムシャクシャするから気晴らしに外に出たけれども、全然心が晴れやしない。

 昼間の住宅地だというのに人影がなく、潮の香りもどこか沈んだように濁っている気がする。

「ねえおとおさん。どうしてあんなのを仲間と認めてたの」

 視線を落としながらひとりごちる。

 船上でのクミンの動きは確かに凄かった。アタシがなんどピンチになっても颯爽と助けてくれて、助言もくれて。おとおさんの仲間は凄いんだって、そう思ったのに。

「強いだけじゃ冒険者と変わらないじゃない。アタシは勇者の仲間になりたいの。おとおさんみたいに、弱い人々を助けたいの。なのに、あんな」

 緊張感の欠片もない酒盛り。アタシはあんな姿に憧れを抱いていたわけじゃない。

 歩く足を止めて歯を食いしばる。

 こうなったらアタシだけでもかっこいい勇者の仲間になるんだ。誰よりもかっこよく、隙のない完璧なアーチャーに。

「なぁ、あんた勇者の仲間なのか?」

 後ろから高い声に話しかけれる振り向くと、一人の少年がアタシを見上げていた。

 藍色のボサボサな短い髪に、同色の瞳。こんがりと焼けた肌。身体は細いけど、子供にしてはガタイがいい。

 年下のくせに生意気。まずは礼儀ってものを教えてあげなくっちゃ。

「自己紹介もせずに女の子に後ろから話しかけるなんて、親の教育がなってないんじゃないの」

「あっそ! 勇者の仲間じゃないならいいや。あんた弱そうだもんな」

「ちょっ、待ちなさいよ! 誰が弱いって誰は。アタシは勇者の仲間でアーチャーやってんの。強いの!」

 このクソガキ。射貫いてやろうか。

「だったら勇者に伝えてくれよ。オレの父ちゃんの仇を取ってくれてって。あの海の魔物を全滅させてくれってよぉ!」

 甲高くて耳に響く不快な声。けど悲痛な叫びが妙に心に響く。

「アンタもおとおさん殺されたの?」

 いや、ある意味当たり前か。被害者がたくさんいるんだもん。それだけ肉親を失った人だっている。

「父ちゃんは漁に出てただけなんだ。悪い事なんてなんにもしてなかった。なのに魔物に殺された」

「漁に出てて殺されたって、死体は見たの?」

「壊れた漁船と一緒に漂流してきた。父ちゃんが見つかってみんなが言ったさ。運がよかったって」

 運がよかった? 殺されたのに、そいつら頭おかしいんじゃないの。

 アタシだっておとおさんが殺されたとき、わけがわかんないくらいツラかった。ツラくって、憎くって、全部を壊したくなって。そんな気持ちを運がよかったって?

「何ソレ、わけわかんない」

「オレだってわかんないよ。けど海で襲われたから、身体だけでも戻ってこれたのは運がいいことなんだってみんな言ってた。運がよくないと、死体すら戻ってこないって。大体の人は、もう発見されないって」

「あっ」

 この世の理不尽を敷き詰めたような睨みを、理不尽に受ける。

 海に散った被害者は発見されない限り、生きているか死んでいるかわからない。例え九割九分死んでいても、確証が持てないから生きていると希望に縋る。

 希望を捨てられないと言うことは、希望に苦しみ続けられると言うこと。

 確かにそんな状況に陥るぐらいなら、いっそ死亡が確定していた方が割り切れるのかも知れない。

「けど、そんなのが運がいいなんておかしいじゃない」

 この子もおとおさんが死んでるんだもん。湧き出る怒りや苦しみは言葉なんかじゃ癒やせない。アタシにはそれがよくわかる。

「わかったわ。勇者に伝えてあげる。けどもしかしたら、アタシが仇を討つかもね」

 絶対に殺さなきゃいけない敵が増えた。そして、これ以上被害者は増やさせない。

 アタシが宣言すると、少年は少したじろいだ。

「なんか頼りなさそうだけど、そんな大見得切って大丈夫か?」

「大丈夫よ。大船に乗った気でいなさい。アタシはエリス。イッコク一のアーチャー……になる予定の美少女よ」

 右手を差し伸べて上げる。少年はアタシの顔と手を交互に見ながら、右手を取って握手をした。

「オレはジュン。イッコク一の漁師になる男だ。頼んだぜエリス」

 生意気にも啖呵を切りながら返してきた。けどいいわ、男の子なんだから、それぐらい強気じゃなくっちゃ。

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