281 先走る想い
「また大群じゃないか。コレはちょいと骨が折れそうだねえ」
ワシは大検を担ぎ上げながら、サハギンへと駆ける。繰り出してくるトライデントを懐へ踏み込みながら避け、大剣を振り下ろして一刀両断した。
「まあ、リハビリ相手にはちょうどいいかね」
平和パレードでは不覚を取ったし、何より軽い剣を振り回してたからね。戦いの勘を取り戻すところから始めないと。
大剣を振り下ろした隙を突くように、サハギン達が順々とトライデントを伸ばしてくる。
「いいね。けどワシに挑むには動きがお粗末だよ」
横に回転しながら大剣を振り回し、三匹の胴をいっぺんに切り飛ばす。
「おやおや、お仲間がやられて怖じ気づいたかい」
二の足を踏んで動けないように見えるサハギン達の胸に、鋭く矢が突き刺さった。
「アタシだって強いんだよ。お前らなんかに負けるもんか」
エリスが虚空から矢を作り出しては番え、サハギンを的確に射貫いてゆく。大きなコンテナを背負い、背後を取られない位置取りを心がけている。
へえ、エフィーが直々に手解きしただけはあるね。荒削りだけど大した腕前だよ。けど青いね。攻撃することに夢中になりすぎ。
「コンテナの上ががら空きだよエリス」
「えっ、きゃあぁぁ!」
サハギンの影がエリスを覆い、トライデントが突き降ろされる。あらあら、恐怖に動転して身を屈めちゃってるよ。
嘆息混じりにジャンプをし、大剣の腹で中空のサハギンを叩き飛ばす。
「敵から目を離さない! エフィーみたいになりたいなら、死ぬ寸前まで顔を上げで照準を敵に合わせな」
「クミン、ごめんなさい」
「謝るのも反省するのも後。まずは自力で戦いを生き抜く。敵は待っちゃくれないよ」
叱責することでようやくエリスは顔を上げたよ。全く、先が思いやられるわ。まだ序の口だっていうのにねえ。
サハギンの群れを切り伏せながら矢の筋を眺める。一度気持ちがブレたってのに、正確に急所を射貫いている。
負けん気だけはいっちょまえ。ってところかね。エフィー、後進を育てるのはなかなか大変だよ。
まだまだ魔物の気配が消えない船上で、思いを馳せながら大剣を振るう。危なげだらけのエリスを庇いながら。




