279 戦う覚悟とフォーレの餞別
二階建て一軒家のリビングで私たちタカハシ一家とチェル様は、お昼にお父さんが作った一品料理のチャーハンを食べていた。
お父さんの気まぐれ料理、おいしいんだけどやっぱりおかずも欲しいかな。
みんな昨日は侵略行為で忙しかっただろうからって。私達に気遣ってくれたのは嬉しいんだけどね。今度は隣で並んでお料理したいな。
「ええ、そう。わかったわ、ご苦労様」
みんなそれぞれ味の感想を言って食べているなか、チェル様がスキルのメッセージで誰かと連絡を取っていた。
何事かなって見つめていたら、チェル様と目が合ったよ。
「勇者ジャスたちが一丸となって動いたそうよ。目的地はヴァッサー・ベス。最初に選ばれたのはアクア、あなたよ」
ロンギングを見張らせている配下からのメッセージだったみたいだね。そっか、一番手は私か。
「マリーを仕留めたのは私だもんね。きっと恨みとか憎しみとかに突き動かされてるんだろうな」
「理屈を考えると妥当でしょう。アクア、大丈夫ですか」
シェイがまっすぐ視線を向けて心配してくれる。
「大丈夫だよ。覚悟はとっくに決まってるもん。勇者が私の侵略地に来るとなると、グズグズしていられないね」
お昼ご飯を食べ終わったら、歯磨きとかした後でヴァッサー・ベスに向かわなくっちゃ。ご飯は大事だから中断したりしないよ。せっかくお父さんの手作りなんだもん。
「キヒヒっ。勇者達は万全で本気だろぉかんな。泣きべそかいたら笑ってやんぜ」
デッドがスプーンを咥えながら挑発してきた。器用に喋るね。
「酷いよデッド。ちょっとは心配してくれてもいいと思うんだけど」
不安はたくさんあるし、かなり怖い。けど私は、そういう戦いに飛び込んだんだ。
気になってお父さんの席を見ると、私のことを心配そうに眺めていた。
「なぁアクア。怖いなら逃げちまっても構わないんだぞ。本気で望むなら、俺はいくらでもアクアの盾になってやる」
見栄えだけは格好よくて、とても優しい。実行できる実力がないことを知っているのに、それでも全力で守ろうとしてくれる。
甘えたい気持ちが湧き上がってくる。けど、ソレをしたらお父さんが押し潰されちゃうよね。
「大丈夫。私だってそれなりに強いもん。フォーレにアドバイスをもらって、シェイに鍛えてもらったんだよ。弱いままの、はずがない」
自分の右手に視線を落としてグッパグッパと動かしてみる。大丈夫。戦う力はちゃんとあるもん。
「アクアぁ」
考え込んでたら後ろからフォーレに抱きつかれた。
「きゃっ、ちょっとフォーレ、ビックリさせないでよ、もー」
「ごめんねぇ。はいコレ餞別ぅ」
謝りながら私の目の前で、緑色の御守りを手にぶら下げて見せる。
「御守り?」
「そぉ。いざって時はぁ、地面に投げ捨ててねぇ。きっとアクアを守ってくれるからぁ」
「投げ捨てるって罰当たりじゃない。けどありがと。嬉しいよ、フォーレ」
「どぉいたしましてぇ。はぁい」
フォーレは返事をしながら、後ろから私の首にかけてくれた。胸の中心ぐらいで緑の御守りが揺れる。
フォーレの想い私を守ってくれる。大丈夫、怖くない。
「私、勇者と戦ってくるね」
みんなを眺めて宣言した。
しばらくしてから、行ってきますを言ってヴァッサー・ベスへと向かったよ。




