278 アクア・タカハシ
海にはたくさんの生物が暮らしている。
大っきなクジラなんかいれば、小さな微生物やプランクトンもいる。
海底にへばりついているイソギンチャクもいるし、貝やヒトデなんかも生きている。
深海魚なんかは形が様々すぎて、一括りに出来ないくらい。
みんな当然生きていて、同種で群れを成すのはもちろん、全く違った種族同士でも共存する。
逆に天敵に狙われて食べられちゃうことも日常茶飯事。
食物連鎖のヒエラルキーは当然のようにある。仲間が食べられたからって各上相手に復讐なんてまず起こらない。
だから私、わからないんだよね。大切な人を殺されたとき、相手を憎んだり恨んだりする気持ちが。
悲しいのはわかるよ。お母さんが死んだと思った時、ものすごく悲しかったもん。
けど復讐したいって気持ちにはなれなかった。
お母さんは使命を背負って、無事に果たして、海に果てた。だからきっと悲しくても、喜ばしいことなんだ。
私たちも使命を持っている。人以外の生物じゃ抱くことの出来ない物。
海で生きる生物はみんな、今を生きるのに精一杯で、将来こうなってやるって夢をまず持たない。
使命とか夢とかってきっと、人間に生まれた特権なんだと思う。
シンプルになりきれないから強くなりすぎてしまう。ヒエラルキーの上にいる生物に闘いを挑み、勝利してしまう。挙げ句、同族同士で大きな争いをする。
海よりも陸地の方が広さに制限があるから、狭い場所を奪い合う。
だからどこかで、誰かが帳尻を合わせなきゃいけない。
人間が必要以上に好き勝手出来ないように。今一度、人間は海に適応していない生物だと教えなきゃいけない。
それが私の使命。ホントは、使命なんて気にしないでお父さんやチェル様、弟や妹達と暮らしていけるのが一番なんだけどね。
けどしょうがないよね、お父さんが必死でかっこいいんだもん。私も手助けしたい。例え命に代えても、お父さんの役に立ちたい。
だから私、精一杯がんばるの。




