273 集合
口を出さず、俺を支え続けててくれるエア。
「俺は重いだろエア。お礼にお前が生き残るか」
提案すると、満面の笑みで見上げてきた。
「父ちゃんに潰されちゃうほどやわな育ち方はしてないよ。それとウチ、生き残って暮らすビジョンにはピンとこないかな」
「そっか」
よくよく考えたらエフィーを仕留めちまってるもんな。全力で仇討ちされても文句言えねぇ。
「おっ、どうやらみんなも戻ってくるようだな」
森を揺るがすような地響きに安堵を覚える。重厚でいて軽快な足音、シャインかな。
「合流ぅ。シャイン止まってぇ」
「何を言うフォーレ。ミー達の逃避行に終わりなどはない。はーはっはっ!」
高笑いしながら駆けてくるバカ。思わず頭を抱えて溜め息を付いちまった。
「エア、アレを一喝してきてくれ」
「あははっ、りょーかーい。チェル様、父ちゃんをお願いね」
「任せなさい」
俺を支えていたエアはチェルと交代し、シャインに向かって飛んでいった。シャインに速度を合わせながらフォーレの肩を掴んで離脱させる。
「何をするエア。嫉妬したからと言ってフォーレの幸せを奪うのはまちが……」
エアはフォーレを安全に降ろしてから、シャインの背に飛び乗る。後ろから両手でアゴを掴み、思いっきり仰け反らせた。
「キャメルクラッチ!」
「のおぉぉぉお!」
エアのヤツ器用だなぁ。走る馬を相手に関節技を極めるとは。シャインなんて前を見る余裕もなく暴れ……あっ。
崖から駆け落ちた。激しい落下音が聞こえた。
しばらくした後で、ボロボロのエアが照れくさそうに笑いながら、ボロボロのシャインを足にぶら下げて飛び戻ってくる。
「派手にやったけどぉ、大丈夫ぅ?」
「あはは、ちょっとやり過ぎちゃったかな。ウチは平気だよ、フォーレ」
「うぅん……ここが、楽園……」
意識半ばでうわごとを漏らすバカ。当分は起き上がらないだろう。
「シャインはどこまで幸せな頭をしているのかしらね」
「知らねぇ、覗きたくもねぇな」
「同感ね」
チェルと一緒に呆れていると、後ろから力強い着地音が聞こえた。振り向くとグラスがアクアを抱えていた。
「ありがとグラス。もう大丈夫だよ」
「フンっ」
アクアを丁寧に降ろしながらそっぽを向くグラス。二人とも無事に帰ってきたようだ。
「あぁ、平和だなぁ」
「ふふっ、魔王のセリフじゃなくてよ」
俺の呟きに満更でもない返事を返すチェル。
「ただいま戻りました」
「うわっ、シェイ。いつの間に」
音もなく隣に立ってるの止めてくれねぇか。心臓に悪ぃんだけど。
「まぁいいや。後はデッドとヴァリーだけか。あいつら遊んでそうで怖いんだよな」
遊びが過ぎてうっかり殺られてねぇか心配だわ。
「撤退する際、悪い癖を発揮していました」
「あちゃー、やらかしてたかー」
「大丈夫よコーイチ。デッドもヴァリーも思っているより愚かではないわ。ほら噂をすれば」
チェルが視線を向けると、森の向こうからデッドが歩いてきたぜ。背中でヴァリーが手を振ってらぁ。




