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俺が異世界で魔王になって勇者に討伐されるまで  作者: 幽霊配達員
第3章 魔王と勇者の輪廻
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272 魅惑の姫と意地の人間魔王

 チェルは静かに近寄ると、俺のデコをちょんと指で突いた。

「コーイチ、あなたこのままでは潰れてしまうわ」

 ズイッと顔を寄せ、超至近距離で俺の目を見上げてきた。甘くもツンとくる香りが鼻孔を刺激する。

「コーイチ。私は今からあなたを洗脳するわ。だから心して聞きなさい」

 引き込まれる。甘く淡い誘惑に陥っちまいそうだ。

 エアが身体を支えてくれてるってのに、二人きりだと錯覚する。

「幸せに家庭を築きたい……助けて」

 不意に揺れる瞳が、震える唇が、チェルを年下のか弱い女の子だと認識させる。

 やれやれ、ホント情けねぇぜ。こんな愛らしい女性におんぶ抱っこされたままでいられるかよ。俺は魔王になって、チェルを守るんだ。この意地だけは譲れねぇ。

 チェルが表情を気品に変え、少し後退した。

「立て直したようね。頼んだわよコーイチ。少しでもダメだと思ったら交代するから」

「いつまでも情けねぇままじゃいられねぇ。交代する機会なんて訪れねぇよ」

 ニヤリと笑ってやると、妖艶な笑みが返ってきた。

「あら、コーイチのくせに生意気じゃない。けどその意気よ。それとあなたの子供達からメッセージが届いてるわ。無事にマリーを()ったそうよ。じきにみんな帰ってくるわ」

「これで、アスモのおっさんとリアの願いは果たされたって事かな」

 空を見上げてみる。静かな風が通り過ぎるのを感じた。

「お父様とお母様の願い、半分は叶ったわね。イッコクを狂わせる歯車は取り除かれた。後はどう修正していくか」

 そして、俺が討伐されるまでにチェルと家族になれるか。こっちの方が本命な気がするぜ。

「カウントダウンは始まったってか。制限時間いっぱい、命がけで魔王をやってやる」

 イッコクの平和には命の代償……魔王の命が必要だ。

「そして、コーイチの子供達もね」

 俺の心を読んだかのように、チェルが補足した。

「あぁ。俺たち全員の命で勇者の修正を図る。チェルの命なんて賭けさせねぇ」

 口にして笑ってみせる。チェルが安心したようでいて、悲しげな笑みを浮かべた。

「私も覚悟を決めていてよ。一人生きて、幸せになる覚悟を」

 そうだよなぁ。幸せになるには覚悟がいるんだよな。けど独りぼっちはなぁ。

「なんなら子供達の誰か一人を生かすか?」

「冗談は存在だけにしなさいな。たとえ一人でも、魔王(クラス)を生かすのは難しいわ」

 冗談は存在だけって、俺に掛かってるのか? 

「わかってる。言ってみただけだ」

 儚い夢物語。笑いの種にはもってこいだ。大丈夫、俺はまだ、生きている。

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