270 ヴァリーの独壇場
「お邪魔するわよー」
「それヴァリーのブームなのか?」
頑丈なドアを蹴破り、慌てふためく豪華な衣装を着た貴族共を眺めながらヴァリーにつっこむ。
「キャハっ。思ったよりもたくさんいるー。悲鳴なんかひっきりなしに上げちゃってー、かわいそー」
贅沢に肥えたおっさんや細長そうな野心家。ケバい女やお坊ちゃんお嬢ちゃんもそこそこいやがる。名目上平和パレードだもんなぁ。そりゃ家族で嗜みにもくるわ。
「キヒっ、避難場所にしては贅沢じゃねーか。もっと何もないところで縮こまってるもんだと思ってたんだがなぁ」
意外と広いし、いい趣味してやがる。ふかふかそうなソファーもたくさんあるし、メイドが丁寧にドリンクも配ってやがらぁ。
壁は確かに頑丈そうなレンガ積みの仕様だが、無骨にならないようにか絵画やカーテンで彩られててるぜ。窓なんてひとつもねぇのによぉ。
護衛の兵士も中にたくさんいるなぁ。もちろんドアの外にもたくさんいたぜぇ。みんなクモの巣と鮮血で廊下を彩ってるがな。
「んで、どうするヴァリー。僕が派手に暴れてやってもいいが」
「外で暴れてみて分かったんだけどー、兵士達は思ったより大したことなさそうだったんだよねー」
ヴァリーは僕の背中から降りると、一人で部屋の中へと歩を進める。
「だ・か・らー、肉弾戦でも余裕ーな気がするのー。ヴァリーちゃん一人で殺らせてー」
嗜虐の笑みを浮かべてながらヴァリーが振り向いたぜ。僕がメイドをあっさり始末したことでフラストレーション溜まってんだろぉかんな。
「好きにしていいぜ。ピンチになっても手伝わねぇかんな」
城内でゾンビやスケルトンを出せるのかは疑問だが、まぁ問題ねぇだろ。
「くっ、バケモノ風情が言わせておけば!」
痺れを切らした槍兵が、強張った表情で一人突っ込んでいった。
「はーい、一名様地獄へご案内ー」
踊るように回りながら突き出す槍を躱し、回る勢いを乗せて顔にビンタをお見舞いする。
「ふぎっ!」
被っていた兜ごと、首を曲がってはいけない方向へねじ曲げやがった。
強烈なファーストコンタクトに悲鳴が沸き上がるぜ。
「やだー、そんなに見つめないでよー。照れちゃうじゃなーい」
よく言う。
「もー、レディーに恥かかせないでよー。ダンスは男性がエスコートするものなんだよー。キャハハハハっ」
身を捩らせ、お腹を抱えながら爆笑をする。一頻り笑った後で、標的を見定めるようにゆっくり顔を上げた。
「仕方ないなー。ヴァリーちゃんが手取り足取りー、踊り方を教えてあげるー」
跳躍すると、赤いハイヒールが兵士の顔を蹴り飛ばした。近くにいる兵士に次々と必殺の平手打ちを浴びせ回る。
「ふー、いい運動したー。後は亡霊達にお任せしちゃおー。亡霊遊戯」
明るかった部屋が薄暗くなり、濃厚な霧に包まれたぜ。感じんのは、身の毛がよだつ恐怖ってヤツだな。
「マリー派の貴族って偏見でー、たくさんの恨みを買ってると思ったんだよねー。想像以上で身震いしちゃうー」
恍惚の笑みを浮かべ、背中を抱きながら身震いするヴァリー。
遠くでは貴族達が無数に亡霊に取り囲まれ、ジワリジワリと恨み節を吐きながら憑き殺している。
メイドも同様だった。侍女とはいえ女の格差社会で他者を蹴飛ばして成り上がってきた猛者。女の恨みってヤツは、男の僕には深すぎて分かりそうもねぇぜ。ってか思わず目を逸らしたくなった。
満足そうなヴァリーが小走りで戻ってきて、僕の隣に並ぶ。
「悪人だから凄い恨みでしょー」
「だな。どんだけ遠いところで屍の山を作り上げてきたんだか」
平気で村単位の人を見捨ててそぉだ。
「だよねー。けどねー、悪人じゃなくても恨みってたくさん買うものなんだよー。善人は善人でー、悪党や敵から恨みを買うことになるからねー」
……妙に的を射た言い分だ。恨みって、生きてる限り絶対に湧き出るものなのかもな。
僕らはこの場が静かになるまで観察してから、悠々とロンギングから脱出したぜ。




