268 逃げるついでに
キヒヒっ。みんな尻尾を巻いて逃げてってらぁ。戦場に残ってんのは僕とヴァリーの二人だけ。コレならうるさく言われずに暴れられるってもんだぜ。
「なぁワイズにクミンよぉ。不抜けた勇者の代わりに、テメェらが遊んでくれんだろ」
たくさんのザコ共を散らばらせながら前方に魔法使い、後方に戦士が紛れてるぜ。ヴァリーに背中を任せねぇと注意が追いつかねぇ。
「火遊びも大概にしろよガキ共。テメェらだけでもココで討ち取ってやらぁ」
「キャー怖いー。ヴァリーちゃんは襲われないようにー、たくさんの死者に護ってもらわなきゃー」
「被害者を増やされる前に、アンタらを叩き切ってやるよ」
クミンがヴァリーのゾンビ軍を蹴散らしながら突っ込んで来やがった。
「さすが勇者の仲間だ、おもしれぇ」
ヴァリーと位置を入れ替え、両手でクモ糸を伸ばして剣を防ぐ。絡んだ。
「キヒヒっ。コレで剣は使えねぇぜ」
「その剣に愛着ないからくれてやるわ。普通の剣なんてそこら中にあるもの」
クミンは簡単に剣を手放すと、事切れた兵士の剣を拾いやがった。万全の装備じゃないから出来る捨て変え戦法ってか。
「グランドバイト」
「なっ!」
僕らを囲むように地面から無数の岩の針が湧き上がった。食われる。
「デッド跳んでー」
「わぁってるよ」
ボフリとヴァリーが背中に跳び乗ってきたのを確認してから、建物の外壁に向かってクモ糸を伸ばす。
身体を引き上げながらジャンプし、食らいつく大地から難を逃れて壁面へと着地したぜ。
「くっ、器用な野郎がっ」
ワイズが苦虫を噛んだような表情をしてたが、文句を言いたいのは僕らの方だ。マジで危なかったんだかんな。
ふと横を見ると、槍で貼り付けにされたマリーがぶら下がっている。
「マリーも凄い執念だったよねー。使えそー」
ヴァリーが耳元で囁いた。もう死んでんのに使うもクソもねぇように思うんだがな。
「ちと早ぇが、僕らもそろそろ逃っぞ」
「賛成ー。けどちょっとだけ寄り道してこーよー」
「今更逃げられると思わないで!」
クミンがジャンプしながら剣を振り上げてきた。僕は屋上へとクモ糸を伸ばして更に跳ぶ。着地ついでに床へクモの巣を貼ってトラップを仕込み、次の屋上へと跳んで移る。
「逃がさなっ……ちぃ!」
かかった。クモの巣に足を張り付かせたな。
「じゃーねー。ヴァリーちゃん達はお城を見学してから帰るよー」
「おっ、いいなソレ。ついでに寄ってくかぁ」
僕は追っ手が来ないようにクモの糸を張り巡らせながら、屋上伝いに城を目指した。敵に追いつかれないように撒くのがしんがりの務めだかんな。
視線を巡らせると、遠目に槍の雨が降っていやがる。
「なぁヴァリー。あそこら辺って何があったっけ?」
「えっとー、確か魔科学研究所だった気がするー」
別の方向からは悲鳴が聞こえてくんな。
「じゃああっちは?」
「んー……富裕層の居住エリアだったかなー」
「なんっつーかさぁ、僕らって意外と似たもの同士だよなぁ」
「まー、家族だからねー。ヴァリーちゃん達も寄り道しよー」
「だな」
僕は侵入におあつらえ向けな窓を発見したぜ。




