263 反撃の刃は
「もうやめろぉぉぉ!」
動きにくいマントを脱ぎ去り、飾り物の剣を抜いてコーイチへと襲いかかる。この場で指揮をとっているのは間違いなくコーイチだ。コーイチさえ落とせば敵は瓦解するかもしれない。
「来たか勇者……って、うわぁぁぁ!」
ボクを見るなり悲鳴を上げるあたり、スピードには全く付いてこれていない。腰を抜かしているところ申し訳ないが、お前が吹っ掛けた戦いだ。責任は命で取ってもらうぞ。
流れる動作で剣を振り上げ、下ろす。久しぶりに剣を振るったけど、身体が思ったように動いてくれた。この一撃で終わりだ。
コーイチの怯えた表情が黒い影に隠れる。クロスされた二つの黒い刃が、ボクの剣を下から受け止めた。
「なにっ」
「さすがは勇者です。自分たちの弱点を瞬時に判断し的確に攻める。ですがそう易々と父上は殺らせません」
大きなひとつ目が見上げてくる。両手から黒い剣が伸びていて、細い腕でボクと互角に剣の押し合いを演じていた。
「凄まじい力ですが、悲しいかな剣が脆すぎます。飾り物の剣では自分には勝てませんよ」
拮抗する力。シェイは完全に、ボクに夢中になっている。勝機だ。
「フリーズ・ブレイク」
聞き慣れたワイズの声だ。コーイチに向かって両手を突き出し、魔法を放っていた。対象を凍らせて砕く、シンプルながらに驚異的な氷魔法。
「うわぁぁぁぁ!」
両手をクロスしてガード体勢をとるコーイチ。そんなんことで魔法を防げるわけがない。今度こそ決まった。
「キャハ。フレッシュな死体は素早く動けるから便利だねー」
突如動き出した無数の死体が、射線を遮り魔法を防いだ。凍って砕ける死体の向こうで、コーイチが唖然としている。
「んだとっ! 完璧に不意を突けてただろ今の!」
「この程度の不意打ちでヴァリーちゃん達を欺けると思ってたなんてもー、笑わせないでよー」
人を馬鹿にするように笑うヴァリー。ワイズの不意打ちを防いでいい気になっている。
「やっぱり最後にものを言うのは、単純な接近戦だね!」
「なぁっ!」
どこで調達したのか、クミンが長剣を振りかざしコーイチの背後をとる。彼女の力なら多少の防御ぐらいゴリ押せる。
「させるかっ」
クミンの振り下ろしに、グラスが素手で割って入った。あろう事か、コブシを振り上げて剣に対抗してきた。
クミンの勝ちだ。
「ちょ……嘘でしょ」
「重い一撃だが、いかんせん剣が軽すぎたのではないか?」
言うなりにグラスはコブシで剣を砕き、回し蹴りをクミンに浴びせる。とっさに跳び退く事で衝撃を逸らすものの、ダメージは軽くなかった。
「ちょっと、パワーがシャレになってないじゃない!」
「生き延びておいてよく言う。さすがは勇者一行の前衛といったところか」
グラスはクミンとの戦闘を楽しんでいる様子だ。
ボクはシェイの相手で手一杯。他の連中も騎士や兵士を相手に全力で暴れ回っている。この位置取りなら彼が決めてくれるはずだ。
射線を通せる絶好の位置取りをし、遠距離からコーイチを射貫いてくれるだろう。頼んだよ、エフィー。
願いは、建物の上から放たれた銀線に乗せられた。
「だめっ、お父さん!」
「おいジジイ!」
「わぁ……」
「偶然近くでいい雰囲気のカフェを見かけたんだ。まずはお茶でも嗜まないかい」
コーイチの子供達の悲鳴が重なった。若干一名見向きもしてない輩もいたが。
エフィーの一矢が、コーイチへと迫っていった。




