262 止まらない連鎖
「よいしょ。あー酷い目にあった。って、ちょっとよくないところで降りちゃったかな」
シャインが派手に暴れている片隅で、アクアと呼ばれた少女が騎士団の真ん中に着地した。派手なトライデントを持っているが、他の面々に比べて大したことなさそうに見える。
「キサマもバケモノの仲間だな。もう容赦はしない!」
顔を強張らせ、冷や汗を垂らすアクア。怯えながら視線を動かす姿は不憫に思うが、お前達は派手に暴れすぎた。恨むのならバカなことを仕出かした身内を恨むんだな。
ボクは取るに足らないと感じ警戒を緩めようとした。けど心の奥で警鐘が鳴り、警戒を怠るなと叱咤してくる。
「アクア、怖いなら俺を頼ってもいいんだぞ」
「私、絶対に負けられない。それ!」
コーイチの一言でアクアの雰囲気が強いものに変わった。水玉を作って遙か高くまで飛ばすと、中空で弾けて雨のように降ってきた。
「天候を操るとは大したものだ。だが少々の悪天候で動きが鈍るほど生半可な鍛え方はしていない!」
騎士達が気合いを入れ直し、アクアへと襲いかかろうとする。
「降り注げ、槍雨」
アクアの一言で騎士達に無数の影が落ちる。
「なんだ、急に薄暗……わぁああああ!」
異変に気づき見上げたときには遅かった。降り注ぐ雨一粒一粒が鋭い槍に変わり、アクアの周囲に降り注いだ。
「……あれ? ひょっとして、殺った?」
油断なくトライデントを構えていたアクアだったが、一段落に気づいて間抜けな声を上げる。
言動から読み取るに、槍雨と言われた技は牽制に放った小手調べだったのかも知れない。
これでもう敵が六人目。奥歯を噛んで剣の柄を握り込む。飾られた剣が心細くて仕方ない。
「わぁ、みんな派手に暴れてるなぁ」
遠巻きで手で庇を作りながら、緑色の少女がのんびりと呟いた。存在感のある胸に眠そうな瞳をしている。
「ここは危険だお嬢さん。巻き込まれる前に遠くへ避難するんだ」
近くにいた兵士が戦場の生々しさに震えながらも、親切に声をかける。
「大丈夫だよぉ。アタイも巻き込む側だからぁ。それぇ」
緑色に輝き変貌を遂げる緑の少女。髪のような葉っぱが生えていて、頭からはムチ状の茎が生えていた。蕾みもあるので何かの花のようだ。
「なっ、こんなところにもバケモノがっ!」
腰を抜かして怯える兵士を無視して、コーイチへと話しかける。
「ねぇおとー。顔見せ終わったから休んでていぃ?」
「フォーレはどこまでマイペースなんだよ。テキトーでもいいから戦ってくれ」
「だってぇ、直接戦闘は得意じゃないんだけどねぇ」
緑の少女、フォーレは座り込んで振るえる兵士に微笑みかける。
「それじゃぁ、まずは地面の中に拘束しちゃおうかなぁ」
「ひっ! うわぁぁぁぁ」
兵士含め、近くにいた人々の足下からツタが伸びては絡みつく。そして勢いよく地面へと引きずり込まれ、首から上だけが花畑のように外に出ていた。
「どぉやって料理士よぉかぁ……ってぇ、死んじゃってるぅ?」
しゃがみ込んで首を傾げるフォーレ。
あんなに勢いよく地面に引きずり込まれたんだ。身体なんて無残に圧迫されているだろう。
「まぁいいやぁ。アクア、お水ちょうだぁい。ここら辺にかけて欲しいなぁ」
「大雑把にいくからねフォーレ」
アクアがトライデントを振るいながら、開いた手の一振りで大量の水をフォーレの周辺へと浴びせた。
微動だにせず頭から水を浴びるフォーレ。
「あぁ、やっぱりアクアのお水はおいしぃねぇ。植物なんてあっと言う間に育っちゃうよぉ」
フォーレの周囲に埋まっていた死骸から、ミチミチと樹木が生えてくる。太い枝は自由自在に伸び、ムチのように振るっては周囲の建物を破壊する。
「ほらぁ、アタイの植物たちも元気いっぱぁい。自由に遊んでいいからねぇ」
急成長した木のモンスターは、あろうことか根を足のように動かして自由に歩き始めた。
七人目の敵。
もう武器や防具とか、ブランクがどうとか言っていられない。




