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俺が異世界で魔王になって勇者に討伐されるまで  作者: 幽霊配達員
第3章 魔王と勇者の輪廻
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259 初対面

「ジャス様だ。すっげーかっこいい」

「ジャス様ステキー」

「マリー様美しいです」

「お二人が王と姫なら人類は安泰ですじゃ」

 行進する音楽隊の音に負けないほどの、群衆の黄色い声援が耳に届く。

 祝福の声にボクたちは、馬車の上から幸せを表情に乗せて手を振る。

 それだけで声援は一層大きくなった。

 みんな平和を噛みしめ幸せそうにしている。遠くを眺めてみれば出店が出ているようで、騒ぎに乗じて稼いでいることが窺えた。

 特にこういうときの食べ物は格別だろう。ボクも観覧する側だったら迷わず楽しんでいるに違いない。

 不意にマリーを眺める。視線に気づいたのかボクを見返して微笑んだ。

「今日はステキな一日でしてね。みんな嬉しそうにしていますわ」

「そうだね。かなり大掛かりになってしまったけど、やってよかったと思うよ。みんな幸せそうだ」

「ねぇジャス。わたくし、今夜はジャス様の幸せを独り占めしたい気分ですの。全て片付いたらお部屋に来て下さいませ」

 幸せの気分にでも酔っているように、マリーは夜の営みへと招いてきた。

 あまりにストレートでボクの方も照れてしまうよ。

 行進の列は大通りで一旦止まり、ボクが剣を掲げて平和宣言をする流れになっている。覚えるのは苦手だがどうにか文言は頭に叩き込んだ。

 きっと仲間達も近くで見てくれているだろうからな、恥ずかしい場面は見せられない。

 行進が止まり、音楽隊の(かな)でも止んだ。いよいよだ。

「うわっ! おっ……ぶえっ!」

 とボクが覚悟を決めようとしたところだった。なんとも情けない男性が群衆から弾き出されるように飛び出てきては、ボクたちが乗る馬車の前で転んだ。

 周囲は押し潰れんばかりの人混みだ。きっとこの人は僕たちの前に運悪く弾き出されてしまったんだろう。

 押し殺しきれなかった苦笑いが所々から漏れ出てくる。隣ではマリーが驚きのあまり目をパチクリさせていた。

 男性は短くボサボサな黒髪をしていて、特徴という特徴のない一般市民だった。口元が何かのタレで汚れている。何かを買い食いした跡だろう。

 周囲を見渡してから立ち上がり、着やすそうな服を手でパンパンと払ってから、ボクを見上げてきた。

 いや、あの。状況を理解したならそそくさと退散して欲しいのだけれど。今ならちょっとした笑い事のハプニングとして事を済ませられそうだから。

「よぉ勇者様。何やらご大層な行進してんじゃねぇの」

 あろうことか気安く話しかけてきた。そんなことしたら不敬罪で首を跳ねられかねないぞ。

 ヒヤヒヤしながら周囲にいる兵士達を眺める。みな驚いた表情をし、動こうとしている……おかしい。動いている者が一人もいない。

「ちょっとソコの。あまりに失礼ではありません事!」

 男があまりにも無礼講な為か、あの温厚なマリーが声を荒げている。

「あー、姫さんには別に用ねぇんだ。それより俺は勇者ジャスに挨拶しに来たんだ。これから長い付き合いになっからよぉ」

「なっ!」

 引きつっているマリーを背に隠し、ボクは前に出た。

「あんまり悪ふざけはしないでいただきたい。ボクはこのパレードを平和に終わらせたいんだ」

 折角の平和記念、ボクは誰の手も汚れて欲しくない。

「悪はしてるけどふざけちゃいねぇぜ。俺はコーイチ、魔王コーイチ・タカハシだ。勇者ジャスよぉ、テメェの魔王だぜ」

「魔王だと?」

 どう見ても一般市民。立っている姿は隙だらけで強そうなオーラもない。かといって魔力の魔の字も感じない。笑えない冗談だ。

「今日は顔合わせと、ついでにお披露目にも来たんだ」

 引きつった笑顔をし、振るえる手を空に伸ばした男コーイチ。指を鳴らす形をしている。

「たっぷりご覧あれよぉ! 俺の戦力をよぉ!」

 堂々と宣言をし指が動く……っが、鳴ると思っていたパチンって音は聞こえなかった。

 どうやら振るえすぎて指を鳴らすのに失敗したようだ。辺りを静寂が包み込む。

 緊張していた分、なんだかバカらしくなってきた。

 酒に酔ったおっさんが恥を掻くだけの余興。それで終わると、思っていた。

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