254 エンディングの向こう側で
なぁ勇者、アスモのおっさんは強かったか?
仲間と力を合わせて、ついにラスボスを倒したんだよな。そりゃ嬉しいだろぉ。
これから腹黒いお姫様とエンディングを迎えるわけだろ。
平和を装った王都で偽りの幸せを築くのか。
きっといい人生を送れるぜ。何も知らないままなら。
なんせ苦労の末にようやく得た平穏だもんな。
でも残念だったな勇者よぉ! テメェに平穏はまだ早ぇぜ!
タカハシ家という裏ダンジョンをっ、コーイチ・タカハシと言う名の裏ボスをっ、心ゆくまで楽しんでもらうぞ。
拒否権なんてねぇかんな!
幸せの最絶頂に、必ず戦火の渦に飲み込んでやる。
せいぜいそれまで、生ぬるい平穏に浸かっているんだな。
夜空では二つある月の一つが崩れていっていた。
魔王領特有の淀んだ空気が、浄化されてゆく。
「お父様が討たれた影響ね。二つ目の月は魔王が存在する証。魔王が滅べば、月は一つに戻る。一つの月は、目に見える平和の証よ」
チェルが見上げながら教えてくれた。
「二つ目の月は魔王そのものってか。俺が魔王を宣言したら、月は再びできあがるんかね?」
「さてね……」
人間が魔王になるだなんてイレギュラーもいいところだろ。ただイッコクが認めなくても、俺は魔王をやるからな。




