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俺が異世界で魔王になって勇者に討伐されるまで  作者: 幽霊配達員
第3章 魔王と勇者の輪廻
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252 落城

 夜空では二つの月が存在感を放っているっていうのに、俺の辺りはとてつもないほど暗かった。

 轟音が響いては大地が揺れる感覚に襲われる。

「ははっ……すげぇや。アスモのおっさんの魔王城が……ホントに崩壊してってらぁ」

 俺はチェルと、八人の子供達と一緒に、遠くで崩れ逝く魔王城を眺めながら乾いた声で呟いた。不謹慎な一言だった自覚はあるが、誰からも咎められない。

 あんなに頑丈だったのに。あんなに気のいい魔物達がたくさんいたのに。あんなに……思い出がたくさん詰まってたのによぉ。

 瓦解する音、燃え広がる炎、土煙を上げながら死んでゆく魔王城。

 ふいに隣を静かに盗み見る。チェルが光のない瞳で呆然と眺めていた。

 ちょっと繋がりを持った俺でさえ衝撃がデカいんだ。深い血の繋がりを持ってるチェルの、心に受けてる衝撃は計り知れねぇ。

 振り返ると、子供達もみんな似たような雰囲気で魔王城を眺めている。

 あそこにはみんなの母親がいた。身体だけの関係だったが、俺の奥さん達がいたんだ。あんまり関わってなかったてのに、いざ失うと心苦しいのはどうしてだろぉな。

「悲惨な顔をしていてよ、コーイチ。ほっとくと崩れ落ちてしまいそうだわ」

 軽い感傷に浸っているつもりなだけだったのに、事もあろうか悲劇の姫に軽口を言わせてしまった。

 微笑もうとしている口角に震える肩。普段大きく感じる存在感が、消えそうなほど小せぇ。

 俺は存在を確かめるように、肩をグッと抱き寄せた。冷てぇ肌をしてやがる。

「コーイチ?」

 問いかけてくる視線に、何も答えられない。何かをしたくて衝動的に動いけど、気の利いた言葉さえも出てこなくて固まっちまう。ホント情けねぇな、俺。

 しばらくそのままだったんだが、チェルがゆっくりと俺の胸に頭を埋めてきた。小さく聞こえるすすり泣きに、抱きしめる形で答える。

 そりゃ、むりしてるわなぁ。

 普段は気丈で揺るぎない強さを感じさせるってのに、今は壊れ物のように儚いぜ。

 あぁ……俺やっぱり、チェルを守りてぇ。

 感極まって、夜空を見上げる。っておい、なんか禍々しいオーラが俺たちに向かって降りてくるんだが。

 とっさにチェルを突き放すと、恨みがましい小さな悲鳴が返ってきた。

「こんなタイミングで突き飛ばすだなんて、無粋もいいとこ……何それ?」

 禍々しいオーラは俺に纏わり付くと、溶け込むように身体の中へと収集される。

 同時にたくさんの想いが、心に寄り添ってきた。

「コーイチ。身体は大丈夫。気持ちは悪くなくて?」

 心配してくるチェルをよそに、俺は陽だまりのような想いの数々に浸ってしまう。想いが強すぎて、目から涙が溢れてきたぜ。

 子供達も心配そうに見守ってたが、気にする余裕がなかった。

 そっか。アスモのおっさんは、リアに出逢ってからこんなにも温かくなれていたのか。最期まで幸せだったんだな。

 きっとあのオーラは、魔王の無意識みたいなものだったんだろう。記憶や力とかは全くなさそうだが、溢れんばかりの想いと意思が詰まっていた。

 受け継いだぜ、アスモのおっさん。

「大丈夫、なんともないぜチェル。なぁ、お前ら」

 俺はチェルを再び抱き寄せてから、子供達を眺めた。問いかけられたことで、ハッと瞳に輝きが戻る。

「今この瞬間から、俺は魔王になった。絶好のタイミングで勇者にケンカを売るからよぉ、みんな俺に力を貸してくれっ!」

 情けないかも知んねぇけど、俺の戦力は子供達が全てなんだ。全力で他力本願すんぜ。

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