250 決戦前夜
俺がイッコクに転移してから早いもんで六年になる。
チェルに拾われ、アスモのおっさんに挨拶し、立て続けに子作りしては子供が八人生まれ、リアと対面して、いつしか俺は魔王を目指すようになった。
ただチェルに平穏を暮らして欲しい一心で。
新拠点を築き、侵略地を定め、より一層成長を遂げる子供達。成長の早さが嬉しくて、反面どこか寂しくて、未来のことを思うとツラくって。
もう立派な個人に成長してるって言うのに、俺のわがままに人生を費やさせちまうのが申し訳なくって。
けど俺一人じゃ何も出来なくって……
そうこうウジウジ悩んでいる間に、時間はあっという間に過ぎちまって。気づけば明日、勇者がアスモのおっさんを討伐しに乗り込んでくることに。
ほの暗い室内に、華美な調度類の数々。ケツの沈むぐらいふかっふかのベッド。
アスモのおっさんの魔王城の一室で、俺は一人考えに耽っていた。
子供達はそれぞれの母親の元へ向かわせた。チェルも家族水入らずで話したいことが残ってるだろうから、俺は留守番だ。
それぞれの決戦前夜を思い浮かべ、背中からボフりとベッドへ身体を倒す。天井が遠い。
勇者サイドも決戦前夜をしている頃だろう。今日奇襲をかけてくることは、まずない。
「人の魔王城で随分と寛いでいるではないか」
視線を向けると、近くで紫の強面をした巨漢が見下ろしていた。
「アスモのおっさん。いつの間に」
音もなく入ってくるの止めろよな。ビビってチビりそうになったじゃねぇか。
「てか、親子水入らずで会話を楽しんでんじゃなかったのか」
何気なさを装いつつ身体を起こす。アスモのおっさんは向かいに椅子を引いてきて、ドカリと腰掛けた。
「時期魔王が寂しがっているのではないかと思ってな。様子を見に来てやった」
随分とお優しいことで。
「チェルがコーイチと暮らし初めて四年になるが、手を出していないか確認しておこうと思ってな」
赤い瞳がギラリと光る。このおっさんはひ弱な人間相手になんって事を聞きやがんだ。
「おいおいアスモのおっさんの自慢の娘だろ。手を付けるなって言う方がムリなほどのいい女だぜ。毎日だって抱いてんよ」
「コーイチはムダなところで虚勢を張るな。見ていてチェルが女になっていない事ぐらいわかる……」
なんだよ。せっかく啖呵を切ったてのに。アスモのおっさんも観察眼が鋭いことで。
「とリアが言っていたので間違いないだろう」
自分は根拠をもってなかったんかい。いやまぁリアならそういうの簡単に見通せそうだけども。
「……情けねぇほどの甲斐性なしで済まんかったな、おっさん」
「なんだ? 藪から棒に」
「ホントは見せてやりたかった、抱かせてやりたかったんだ。血の繋がった孫ってやつを」
チェルを抱きたいって欲望も本物だ。けど俺ももう三十四のおっさん。甲斐性がないからこそ、親に孫の顔を見せてやりたいって気持ちを抱いちまう。
「孫か……考えたこともなかった。が考えてみると望んでしまうな」
「魔王のおっさんだけじゃねぇぜ」
リアがどの道を辿るか知んねぇけど、薄らと予感はしてる。
「だな。ありがとうコーイチ。おかげでいい夢が見れた」
夢ねぇ、儚ねぇなぁ。
アスモのおっさんは満足げに立ち上がり背を向ける。
「今夜中に準備をし、家族共々出て行け」
あぁ、やっぱアスモの魔王城は危険なのか。壁から床、天井まで頑丈で崩れそうにないのにな。
「チェルを頼んだぞ」
「任せろ」
間髪入れずに返した返事。聞こえたかは知らないがアスモのおっさんは振り向きもせず部屋から出て行ったぜ。
数時間後。チェルと子供達全員が帰ってきたところで、俺たちは地下から魔王城を後にした。




