248 快進撃
長い一日だった。念願のロンギングに辿り着いたところまではよかった。検問でボクが勇者だと知られ、覚悟も準備もしてないまま国王に謁見。夜にはそのまま慣れないパーティへの参加ときた。
「いやー、美味いメシだったな。お偉いさんはいつもあんないいもん食ってんのかねえ」
パーティが終わったボクは、ワイズと一緒にあてがわれた部屋で休んでいる。今日は広々とした豪華な城の一室で泊まることとなった。
「ワインも美味かったし、羨ましいもんだねえ」
意匠の凝った椅子へ乱雑にもたれかけながら、前髪をいじるワイズ。こんな値段の高そうな場所で普段通りに過ごせる豪胆さがボクには羨ましいよ。
「けど、お偉いさん方は胡散臭くて油断ならねえ。特にジャスは勇者だかんな、下手な口約束をさせられんじゃねえぞ」
茶色い瞳で、突き刺すように忠告してきた。
「わかってる……って言いたいけど、会話ってああも怖い物なんだな」
世間話から始まって、気づいたら主導権を握られていて、誘導されてるのに会話を切り替える隙がない。マリー姫に助け出されなかったら、何を背負わされていたか。
マリー姫。賢くて近寄りがたいほど綺麗で、それでいてあどけなくて護りたくなる女の子だ。
ボクの話の一つ一つに感情を動かし、まるで我が身に起こったかのように表情を変えてくれた。
抱きつかれたとき、壊れ物のような華奢さと温かな体温を同時に感じた。
「おいおいジャス、表情がゆるっゆるだぞ。あの姫さんの事でも考えてたか」
「なっ!」
反射的に反応したら大声で笑われた。
「まっ、いいんじゃねえかそういうのも。色恋沙汰に現を抜かすぐらいが丁度いいんだよ。ジャスは打倒魔王で気を張りすぎてたからな。倒そうぜ、魔王。平和な未来の為にも、恋の続きをする為にもよお」
「ワイズ、マジメに茶化さないでくれ」
決め台詞にボクは、顔を背けることしかできなかった。
翌日からも城で過ごすことになる。豪華さや快適さも確かに凄かったけど、それよりボクたちを満足させたのが王国正規軍の集めている戦場の状況だった。
早速軍議参加させてもらい、人間と魔物の勢力図を見せてもらった。
数ある問題点に限られた兵力。ボクたちは一つずつ戦場に赴いては魔物の脅威を取り払っていく。
エルフの森ヴァルト・ディアスでは癖の強い父娘と出逢う。エルフは排他的だが、父娘は特にその気が強かった。
魔物の脅威も然る事ながら、人間の魔の手も油断ならない。
エルフの人身売買を目論む集団からエルフを救出した。
武具の質を上げようとドワーフの住む村ベルクヴェルクへと赴いた。ドワーフは凄腕の鍛治氏だが頑固で、武具を作る相手を選ぶ悪癖がある。
ドワーフの少女に出逢ったボクたちは、腕っ節で勝ったらいい鍛治氏を紹介すると言われ敗北する。
それでも気概を気に入られ、質のいい武具を手に入れた。
それ以外にも様々な場所へ向かっては、出逢いと別れを繰り返して魔物の脅威を取っ払っていく。
少しずつ、魔王との決戦が近づいていく……




