244 もどかしく遠い日々
ボクの勇者の力が覚醒したことは、ゆったりと周囲に知れ渡っていった。
プテイトで信頼されているC級冒険者に師事してもらい、まず持久力と防御力の鍛錬を行った。
四歳のボクには魔物を倒す力があった。けど不安定で制御できず、短時間しか戦えない。魔物を倒すことが出来ても同士討ちじゃ意味がない。
だから地道に基礎体力を付けることが第一だった。
気持ちは焦る。早く魔王を討伐したい気持ちに駆られ、一足飛びに強くなる方法をせがんだ。
もちろんそんな都合のいい事なんて出来ないし、勇者という例外で持っても不可能。
下手に行動を起こしてケガをする事もままあった。
子供であることがもどかしくて、とても悔しくて。大人の身体があったらもっと早く強くなれるのにと本気で思っていた。
小さな子供ほど、経過する時間を長く感じる。もっと、もっと早い成長を。時間を飛び越えて強くなりたい衝動に何度も駆られた。
高すぎる目標に、地道な成長は焦れったすぎた。成長していることに満足ができなかった。
「強くなったな」
そう褒められる言葉さえ、信じられなかった。
それでも必死に鍛錬を続けた。長く走れるようになり、身体裁きがスムーズになり、重い剣を徐々に振るえるようになり……
一通りの戦闘を辛うじて熟せるようになったのは、十二歳を超えた頃だった。
プテイト周辺の魔物なら、C級冒険者と連携することで安定して狩れるようになっていた。
八年かかった。八年、魔王の進行を見過ぎさなければならなかった。人間の成長の遅さが、悔しくて仕方がなかった。
野宿や旅の仕方も教えてもらっていたので、ボクはプテイトの町を旅立った。まずは王都ロンギングを目指して。
子供の足では遠く、旅の厳しさも嫌というほど味わう事になる。
一泊の野宿。夜の暗闇が恐ろしく冷たく、いつ魔物が出るかわからない緊張感で眠れず、疲れはまったく取れなかった。隣町に行くだけで、一人旅の無謀さを学んだ。
冒険者ギルドで仕事をもらって路銀を稼ぎ、仲間を集ってはロンギングを地道に目指す。
成長の遠さに続き、距離の遠さにも打ちのめされる。
更には仲間だ。利害が一致したと思った仲間に裏切られる事もあり、人間の汚さに失望した。勇者の力に頼らなければ、生き抜くことはできなかっただろう。
真の仲間が必要になった。けど易々と手に入る物でもなかった。
一時的にパーティを組んでは別れる日々が続く。
いろんな出来事や理不尽に揉まれながら、少しずつ王都ロンギングへ向かってゆく日々。
力だけの戦い方に限界を感じ、協会にお布施して回復魔法の習得にも励んだ。
一朝一夕で習得できる物でもなく、魔法の遠ささえも感じた。あまりの手際の悪さに、習得は不可能なんじゃないかと危惧をする。
シスターに励まされなければ、初級回復魔法の習得すら危うかっただろう。
ボクの目指す強さは、本当に遠かった。




