243 新たなる勇者
ボクはジャス。小さな田舎町プテイトで産まれた、やんちゃな男の子だった。
町はよく言えばのどか、悪く言えば何もない退屈な場所だ。
畑や川、近くには森もあるけど、娯楽施設と呼べるものはない。
危険だから勝手に森に入るなと、両親からは散々注意されてきた。けど子供の秘密の場所にするにはうってつけだ。
二つ年上の男の子ワイズと、同い年の女の子トロップがおなじみの遊び仲間だった。
ワイズはやんちゃしているせいか、茶色い髪をいつも跳ねさせていた。トロップは黒い髪をツインテールにするのがお決まりだ。
ボクも含めてみんな好奇心旺盛で、両親以外怖いものなしだった。
川遊びをしてはずぶ濡れになり、イタズラをしてはカミナリを落とされる。それでも懲りずにおもしろそうだと思ったことを迷惑顧みずにやってきた。
ボクらの中でリーダー格は意外にもトロップだった。
無茶苦茶なことをたくさん言っては、ボクとワイズをかき回す。
とにかく毎日が楽しくて、これからもずっと楽しい日々が続くものだと思っていた。
ボクが四歳の頃だ。トロップに誘われて、三人で森へ探検しに行った。
細い木の枝を片手に、歌を歌いながらご機嫌に隊列を組んで散歩した。
ガサゴソと木陰から物音が聞こえては怖くなって震え、何もなかったら強がって威張り散らした。
薄気味悪いからってビビってたら、弱虫扱いされてしまうから。
この時ボクは、真の意味で弱かった。
魔物、ウルフの群れと遭遇してしまう。強がりなんて一瞬で砕け散り、みんなして走って逃げた。
トロップが転び、無慈悲にウルフに襲われた。恐怖と痛みに上がる悲鳴と、目を逸らしたくなる惨劇。
衝撃的すぎて目を逸らせなかった。足を止めて竦んでしまった。一瞬でボクたちもウルフに襲われる。
なんでこんなことになってしまったのか?
世界の理不尽さに怒り、ボクの中の何かが目覚めた。
感情のままに身体を動かし、気がついたらウルフの群れを殲滅していた。
もう動かないトロップと、重傷を負って息絶え絶えのワイズと、呆然と立ち尽くすボク。
無我夢中でわからなかったし、突然目覚めた力に振り回されてもいた。けどコレが、勇者として目覚めた瞬間だった。
後から何度も悔やむことになる記憶だ。もっと早く勇者に覚醒していれば、トロップは……
魔物とは魔王の配下であり、魔王は人間をいたぶる悪だと知った。
魔王がそんな存在だから、トロップは魔物に殺されてしまった。
勇者の使命とは別に、魔王への殺意が高まる。必ず魔王を討つと、強く決意する出来事となった。
ボクは勇者としての道を歩み始めた。




