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俺が異世界で魔王になって勇者に討伐されるまで  作者: 幽霊配達員
第3章 魔王と勇者の輪廻
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242 生まれし命と生まれ変わった魂

 リアを一方的に戦利品として受け入れてから早四年が経った。リアはすっかり魔王城に馴染み、今では幹部クラスの魔物と楽しくお喋りする始末。

 さすがに末端の魔物なんかはリアを知らないので危険だが、城内とこの周辺に至っては問題ないだろう。

 一人で玉座に腰掛けていると、唐突に扉が開いた。

「やっぱり謁見の間にいらしたのね。アスモはいっつもここにいましてね」

 簡素なエプロンドレスに身を包んだリアが、両手を腰に付けて顔を突き出す。隣には無言で佇むガーゴイルもいた。

「ノックぐらいしてくれ。ワシは物思いに耽るときは玉座が落ち着くのだ」

「そんなおじいちゃんみたいなことはなさらず、わたくしとお茶をしましてよ。マンドラゴアが新しいハーブティーをブレンドしてくれましたの」

 軽やかに踊るように接近してくる。ワシの大きな右手を小さく華奢な両手で取り、引っ張って誘い出す。

「わかったわかった。ところでチェルはどうした?」

「チェルはお昼寝していましてよ。まだ三歳ですもの。お昼寝も立派な仕事ですわ。起きたらアスモにも構ってもらいますわよ」

 妖艶な笑みで、ワシにも子守をしろと要求してきた。やれやれ、子育ても大変なものだ。


 勇者サルターレを倒したその日、ワシはリアと夜の一戦を交えた。不慣れな戦いに押され気味だったのを今でも覚えている。

 色々思ったことはあったが、ソコは魔王の名誉のもと割愛させていただく。

 夜になるたびに交えたので、子宝を授かるのはかなり早かった。

 次第に大きくなるお腹に、ワシは恐怖を抱いた。人間の赤子の産み方など魔王はおろか、魔物達も知らなんだ。

 陣痛と破水と、てんやわんやで出産が始まってしまったときは気が気じゃなかった。幹部クラスの魔物達の助言がなければ、母子共に命を落としていただろう。

 そうでなくても問題だらけだった。本当に、よく無事に出産が終わったものだ。

 リアによく似た女の子だった。体付きはほぼ人間の赤子だが、黒く小さな角は紛れもなくワシ譲りであった。

 赤子の身でありながら、ワシに臆さず懐きおうたわ。

 名前はチェル。リアが即興で名付けた。

 リアは尋常でないほどチェルをかわいがった。自身は簡素なエプロンドレスで満足しているのに、チェルの衣服は目一杯意匠を凝らしていた。

 アラクネにデザインを注文しては毒を吐かれていた。スケルトンとは気があったのか、チェルを着飾る方面の会話に花を咲かせていた。

 チェルは心底魔物達からかわいがられ、同時に潜在能力と魔力の強さから期待もされていった。

「チェルがかわいくて困ってしまいますわ。けど、もう一人ぐらい子供がいてもいいと思いません事?」

 子供のかわいさにおかわりを要求するリアだが、ワシは断固として認めない。

 魔王の子供を人間が産む負担は、普通の出産の比じゃなかったからだ。

 チェルは産まれる際に、リアの魔力と生命力を全部持っていこうとした。途中でワシが気づき、リアの回復を図りながら魔力を循環させることでギリギリ出産できたのだ。

 リアはもう、出産に耐えられる身体じゃなくなっていた。

 まぁやる事やるのは(やぶさ)かではないのだがな。


「サルターレを倒してから四年は経過しているのか」

 特大カップに注がれたハーブティーを飲みながら、思い出したように口に出す。

「もうそんなに経つのですね。チェルが大きくなるはずですわ。今回のハーブティーは、ちょっと味が大胆でしてね」

 向かい合って座るリアが、ハーブティーに口を付けた。感想が辛口だが同意見だ。

「でもどうして突然そんなことを?」

 勇者の死をそんなこと呼ばわりとは、ワシもちょっと複雑だぞ。

「言い換えると、新たな勇者に生まれ変わってから早四年というわけだ。そろそろ突いておく時期かもしれん」

 つまり、次の争いの火種を作る。

 リアがハーブティーの水面まで視線を落とす。

「ここしばらくは平穏だったのですが、やはりそう長くは続きませんか」

「少しずつ、魔王城も慌ただしくなるだろうな」

 それでも魔王として、勇者に挑まれねばならん。リアとチェルに戦火が及ばなければ良いのだが。

 不安がどうしても拭えなだった。

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