239 影響力
チェチーリアが魔王城に住み始めてから色々と起こった。
かまどは火力調整が大変なようで、食料を焼いては炭にする日々が続いておった。最初の手料理は何の味付けもしない、ただ焼いただけの肉。
食べれる物が出来ただけで上等とでもいう有様だ。
味気ないし、そもそも人間は肉だけを食べて生きていけるようには出来ていないようだ。配下の魔物にそれとなく情報を聞き、まずマンドラゴアから野菜や香草の採取と菜園作りをしてもらった。
ハーピィに鶏肉と卵、クラーケンに魚介類、マンティコアに肉の提供をしてもらった。
手荒れや肌荒れが痛々しくなってきたので、スキンケアに必要な諸々もマンドラゴアに頼んで用意してもらった。
料理が少しずつ上手になっていくと同じに、魔王城に食欲を誘う匂いが充満するようになる。結果チェチーリアの部屋に魔物が押し寄せようとする事態が発生した。
人間が住んでいるとバレぬようガーゴイルに守備を任せたが、一体では防ぎきれなくなってきた。部屋のドアには魔法でロックがかかるように施すこととなる。
だが匂いに釣られた魔物達は、満たせぬ食欲に苛立ち始めた。魔王城が荒れるのは必然だったといえよう。
チェチーリアは事態に気づき、魔物達の料理も作るようになった。さながら子供の食欲を満たすお母さんの様だ。
給仕はガーゴイルが一体で担当した。
「退屈だったのでわたくしの方が助かってますわ。おいしいって声が聞こえるのも嬉しいですもの。魔王様もぜひ召し上がって、感想を聞かせて下さいな」
負担になってないか尋ねてみたら、生き生きと食事に招待されてしまった。
衣服やエプロン、ベッド類も気になってきたので配下に頼ってみる。マンティコアが羊毛、ハーピィが羽毛、アラクネがクモの糸を用意してくれた。
生地の制作はアラクネが毒を吐きながらやってくれた。
素材だけはやたらいい質素な服が完成。チェチーリアに渡すと、頬を赤く染めながら嬉しそうに驚いた。
ある日マンドラゴアから、チェチーリアの息抜きに散歩をさせたらと提案されて驚愕する。隠し通せていたつもりでいたが、感づいている魔物はちらほらいるようだ。
とはいえ魔王城を堂々と歩かせるわけにもいかない。そこで隠密が得意なシャドーに、認識を阻害する魔法をかけてもらうことにする。
シャドーの保護下でだが、チェチーリアは気軽に散歩できるようになった。そしてなぜだかワシの側によく来るようになる。
おかしな言い回しな気がするが、魔王城が明るくなっていった。
魔王城がめまぐるしい日々を送るなか、勇者たちもまためまぐるしく日々を送っていた。
勇者はマリーヌと婚約し、恋仲となった。勢いを付けて魔物達を次々と倒し、地域的な平和を取り戻していった。
そして満を持して、大勢の正規兵を引き連れ魔王城に乗り込んできた。
……ワシはまた、生き存えた。




