231 勇者と姫
「えっとぉ、サルターレです。勇者をやってます。国王におきましては、そぉ……なんだっけ?」
国王との謁見だというのに跪きもせず、頭を掻きながら辿々しい敬語で挨拶をしていたのが印象的でした。
お仲間に(物理的に)窘められながら、片膝を付かされましたっけ。
わたくしが勇者サルターレ様と出会ったのは、十八歳の時でしたわ。第一印象は、だらしない田舎の方。イッコクの未来を背負うだなんて、何かの間違いのように思えましたわ。
イッコクは人間が平和に過ごしている期間と、魔王の脅威に晒されている期間が交互に連なって歴史を紡いできました。
平和は例外なく、勇者が魔王を討伐したときに訪れます。勇者以外の何者かが魔王を討伐した歴史はありません。
わたくしが産まれたのは、魔王が猛威を振るっている時代でした。
イッコクが魔王アスモデウスの脅威に晒されてから約百七十年。何人もの勇者が魔王討伐に挑んでは敗北を喫し続けています。
それでも人々は勇者に縋ります。勇者にしか、魔王を打ち砕く事が出来ないから。
魔王を倒した勇者には世界のトップに立つ権威が与えられます。ソレまで国を支えてきた重鎮や国王さえも無に返るとまで伝えられています。
国王が権威を失わない為には、勇者と繋がりを持つしかありません。
故に勇者には、国一番の姫を許嫁として贈るのです。ソレがわたくしの役割になりました。
本来ならとっくに、許嫁と政略結婚をしていてもおかしくないのが十八という年齢です。
元より恋愛なんて望めない立場。少し変わった政略結婚をしたところで何の苦にもなりませんわ。
仕方なしに始めた恋愛ごっこでした。サルターレ様は田舎育ち故に純粋で、ちょっとしたお話しにもオーバーに反応してくださります。
タイミングを合わせて共感したり、褒めたり、驚いたりするだけでわたくしに好意を持ってくれましたわ。チョロいとはこのことを言うのでしょうね。
サルターレ様はたくさんの事をお話し下さいましたわ。
魔物との死闘はもちろんのこと、魔物の脅威に晒される町や村の惨状。食料がないことで勃発する人同士の争い。サルターレ様自身が、過去に親しいひとを失ったこと。
わたくしは、この世の地獄というものを甘く見ていたように感じました。
気づけばわたくしがサルターレ様に共感し、共に未来を生きたいと、そう思うようになっていきました。
希望を持ち、未来の幸せを見つめる。恋は盲目とは、甘い世界しか感じられなくな状況の事を言うのかもしれません。
そう。見ることも、感じることも出来ませんでした。
ある日マリーヌが二人きりでお茶会をしたいと言ってきました。勇者様のお話しを聞きたいと。
唐突だなとは思いましたが、惚気話をしたかったので二つ返事で誘いに乗りました。
マリーヌに誘導され、先にお部屋へ入っていく。すると絨毯の下から、魔方陣を模った光が浮かび上がりました。
改めて、この世の地獄を知ることになりました。
最後に見たのは、マリーヌのほくそ笑んだ表情でしたわ。




