223 終わりと始まりの地
全く澄み渡らない青紫色の空。おどろおどろしく捻り曲がった裸の木々。カサついたお肌のように荒れ果てた大地。
そしてそびえ立つは、白いレンガで組み上げられた強大なる魔王城。
イッコクに転移してから早四年。イッコクのヘソに拠点を移してから二年程度。俺たちはチェルの実家があるブラックホールの地に帰省したぜ。
まぁこれまでもちまちまと偉大なる御父様、御母様に現状報告してはいたからな。
二年間丸々戻ってなかったって訳じゃねぇぜ。
「……ってわけで、俺の魔王城も完成間近だ。あとは細々とした内装ぐらいだな」
豪華な玉座に腕を組んで座る魔王のおっさんへフランクに話しかける。ここ四年で俺も随分と距離を詰めたもんだなぁ。物理的な距離は五メートルぐらい開いてるけども。
広い玉座の間で二人きりだ。チェルと子供達は食堂においてきた。お話しが終わったら落ち着いてご飯を食べる予定だぜ。
「ついにコーイチの魔王城が完成するか。よくもこの早さで成し遂げたものだ」
厳つい手で顎をさすりながら魔王のおっさんが唸る。
思い返せば拠点地を探すところからスタートして、二年で城を築いたんだ。子供達がいなかったらきっと、イッコクのヘソにすら辿り着けてなかったんじゃないかな。
「時にコーイチよ。少女に刺され重傷したと聞いたが、具合はいかほどだ」
不意に思い出したかのように話を振ってきやがった。視線が俺の腹部に向いてやがる。
「おあいにく様、体調は万全だぜ。全治二ヶ月半だったがな」
最初の一週間で結構いいとこまで治ったと思ったんだが、思いのほか完治まで時間がかかったぜ。
フォーレお手製の薬で、少しずつ回復してった。チェルを始め、アクアやシェイにも身の回りの世話をしてもらった。気遣われるってのは、不調な時ほど身に染みるわ。
デッドとヴァリーなんかは憎まれ口を叩きにくる回数が増えてたな。気づかれないように心配してたんだろぉけども、頻繁だったからな。
エアとシャインは何事もなかったように普通に過ごしてたっけ。あいつら動揺しないな。
んで、口数が目に見えて減ったのがグラスだ。ちょっと雰囲気が暗くなってる。何かを思い詰めてる、嫌な感じだぜ。
「嘆かわしい事だ。些細なケガでさえ生死に関わろうとは」
「まっ、俺の生命力はイッコクの一般人以下らしいからな」
俗に言うポーションの効き目が皆無だからな。聞いた話じゃ、死の淵からどうにかして俺を呼び戻したらしいし。方法は知らんけども。
「その打たれ弱さには不安を覚えるが、拠点の完成が間に合うのは喜ばしい」
打たれ弱さに関してはあまり触れないでくれ。俺も痛いほどわかってから。にしても間に合うって……
「そんなに時間が切羽詰まってんのか」
「まだ猶予はあるだろうが、勇者の成長が早い。一年拠点作りが難航していたら、間に合っていたかわからん」
おっと、勇者様っていうか人間サイドも待っちゃくれねぇって事か。
「ワシが勇者に討たれれば魔王城は崩れ去り、ブラックホールの地は青く晴れ渡ろう。魔王を討伐した地は平和の拠点とされ、やがて新たな時代の王都として生まれ変わる」
ん? なんかRPG染みた突拍子もない話が始まったぞ。
「ここにいるたくさんの魔物はどうなんだよ? おとなしくなるわけでもねぇんだろ」
「そんなものはワシの魔力が尽きると同時に酷く弱体し、脅威ではなくなろう。数は武器だが統率が取れていなければ烏合の衆と同じよ」
もぉさすがは異世界って感じだな。設定が突拍子なさ過ぎだ。もはや画面越しのゲーム世界だぜ。現実味がねぇや。
「そしてそうなればコーイチ、おまえを守る手段がなくなるだろう」
「……ん?」
首をかしげて考える。えっと……俺自身に力がなくて、配下の魔物も力を失うわけだから……
「普通にやべぇやつじゃん」
単純計算で戦力ゼロだし。
「だから間に合ってよかったのだ。あとはつつがなく魔王を引き継げるかだが、そこは神に頼むしかあるまい」
神を仰ぐように天井を見る魔王のおっさん。
「まっ、なるようにしかならんっしょ。そこは上手くいくと信じるだけだな」
乾いた笑いが帰ってきたぜ。しょうがない奴だとでも行っているようだった。
にしてもここが……チェルの故郷が魔王討伐の記念地にとして王都に発達するのかぁ。それはちょっと気にくわねぇなぁ。




