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俺が異世界で魔王になって勇者に討伐されるまで  作者: 幽霊配達員
第2章 建築!!魔王城『タカハシ』
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218 揺れ動く感情

 魔王コーイチが直々に、あたしと決着をつける。っていうか、そもそもコーイチは生きているの?

 ナイフを刺したときの死相。魔王の子供たちの慌てよう。そしてユックリと目を閉じるコーイチ。

 どう考えても絶望的な状況だった。あそこから助かるなんて、できるの?

 ふと意識を現実に戻すと、囲うように村人があたしを見ていた。

 このまま見られていても仕方ないよね。とにかく、どこか行こう……どこに?

 行く当てなんてない。けど足は勝手に動き出したよ。心が逃げたいって直接、足に訴えかけたみたい。

 あたしが動くと、道を塞いでいた村人が道を譲ってくれた。近寄ることすら、嫌がっているように。

 なんだろうね、この状況。やさしくて元気な同じ村人なのに、昨日と今日で全然違うよ。今のあたしはよそ者みたい。

 暗い気持ちになりながら、ボーっと景色を眺めるように歩く。植物みたいに何も考えてないかも。

「やぁ、麗しのレディ。浮かない顔をしてどうしたんだい」

「……え?」

 何か白い影が目の前にある。ブレていた視界を合わせると、コーイチの息子が笑っていた。

 背が高いから、ちょっと見上げなきゃいけない。馬みたいに長い顔に白い長髪、常に女の子を追いかけ回しているヤツだ。

「確か、シャイン……だっけ」

「ミーの名前を憶えていてくれたのかい。歓迎だね。何も言わなくてもわかる。ススキはミーを求めていたんだと」

 シャインは喜んで自分の胸に手を当てると、あたしの手を両手で強く握った。感情的ではあるけど、やさしさにあふれていた。

 気分のいいやさしさかは置いておくけれども。

「はぁ」

「ほら、言いたいことがあるのだろう。我慢することはない、欲望のままに囁いてごらん」

 顔をグイッと近づけると、甘い口調で言葉を促してきた。

 シャインは何を望んでいるんだろう。わかる気がするけど、わかりたくない。そもそも昨日の今日でコレはおかしい。どういう頭の構造をしているんだろう。

 白い瞳を見ると、期待に輝いたような気がした。

「あの、魔王コーイチはどうなったんですか。それと、あたしを憎んでないの」

 思っていたことを素直に伝えると、ガッカリしながら大げさに首を横に振った。

「ススキ。せっかく二人きりなんだ。無粋なことは考えなくてもいいんだよ。きみは、愛されているんだから」

「二人きり?」

 まさか。さっきまで村を歩いていたのに。ひょっとして気づかないうちに出ちゃった?

 周囲を見渡してみると、民家がたくさん建っていた。村人も窓や家の隙間から覗くように見ている。

「あの、たくさん人がいるけど」

「些細な問題さ。二人きりの愛ある世界に入り込めばね」

 パチンとウィンクされても困るんだけど。

「テメェは何をバカやってんだ」

 紫の影にシャインが、頭をバコンと叩かれた。弾みで握られていた手がほどけたから、二~三歩距離をとる。

「あっ。デッドか。いいところで邪魔をしないでもらいたい」

「どこがいいトコだよ。ドン引きだったじゃねぇか」

 呆れるような半目をしているのは、手足が細長い少年だ。背が高めで紫の髪をしている。

「っと、バカの相手してても仕方ねぇか。おい、ススキだったっけか」

 紫の視線を浴びた瞬間、身体がビクりと反応した。

「ぁっ、なによ」

 震えて最初の声が出なかった。デッドはヴァリーと似た感じがするから、今度こそ殺されるかも……けど、不思議とそんな気がしないのはなんで。

「ジジイを刺した感想はどうだ。うまくいけば呆気なく死ぬぜ」

 死ぬ。コーイチが。

 衝撃で目を見開いているのに、暗闇に取り残されたような不安感に襲われる。頭のなかにコーイチの表情がたくさん出てきては消えていく。

 最後に、冷たい大地に倒れた姿が浮かんだ。

 息が荒くなる。ちゃんと呼吸ができない。血が冷たくなったように寒気を感じる。

「キヒヒっ。まっ、そんなもんだわな。そいつが罪ってやつだ。せいぜい苦しんでろよ。僕は高みの見物をしてっからよぉ」

 毒が回るような言葉に顔をあげると、いじめを楽しむような笑みを向けられていた。

「見物。デッドは仕返しをしてこないの」

 いっそ、仕返しされた方が楽な気がするのに。

「しねぇよ。僕も強く責めれる立場じゃねぇかんな」

「え?」

「実はジジイを毒で殺しかけたことがあんだよ。ちょっと痛い目みせるつもりが、大惨事だぜ。家族からは白い目で見られっし、自分でもよくわからん不安に惑わされたぜ」

 デッドが、自分の父親を。それに、凄く後悔している。まるで今の……

「ちょうど、今のススキみてぇにな」

 思ったことを言いあてられた瞬間、息がつまった。いつまでも呼吸を止めていられそうだ。

「まっ、いろいろと思うトコはあるけどな。でも、僕はススキを気に入ったぜ。なかなか度胸があんじゃねぇか」

 キヒっと笑うと、親し気にポンポンと肩を叩かれた。

 言葉は(とが)っているのに、やさしさがこもっているのはどうしてだろう。

「まっ、せいぜいジジイと対立してみせろよ。応援してっからよ」

 皮肉なのか本心なのか。あれ、あたしはまだ、魔王コーイチと対立できるの。

「待って」

 手を振りながら帰ろうとするデッドを呼び止めると、ンァと漏らして振り向いた。

「魔王コーイチは無事なの」

「さぁな。ススキの戦いには、そういうわかんねぇのも含まれてんだ。僕に甘えてんじゃねぇっての」

 ただ惑わすような言葉なのに、安心できる要素(ようそ)が含まれている。

「デッドはやさしいんだね。一番コーイチに似ている気がするよ」

「ったく、僕にケンカ売ってんじゃねぇっての」

 不愉快そうに眉をひそめると、今度こそ離れていった。

「まったく。デッドも野暮なものだ。さぁススキ、愛の続きを……」

「テメェ帰んだよバカが。後でシェイやエアと遊んでもらえっての」

 隙を見て近づいてきたシャインだったけど、再び戻ってきたデッドに首の後ろをチョップされてクタっとなった。

 襟元を持って、シャインを引きずっていったよ。

 ちょっとだけ、落ち着いたかも。

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