表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺が異世界で魔王になって勇者に討伐されるまで  作者: 幽霊配達員
第2章 建築!!魔王城『タカハシ』
217/738

216 怒りの矛先

「うっ……おっ……」

 腹部に感じる熱の塊。見下ろすと、両手で握られたススキのナイフが、俺の腹に突き刺さっている。

 痛いと熱いは同じ感じ方をするんだっけ。確かにこれは、熱い。

「あっ……あぁ……」

 ススキは手を離すと、うろたえる様に一歩ずつ下がってゆく。緑の瞳孔(どうこう)は動揺にすぼみ、震えた口が開いていた。

 刺された腹からは(にご)った血が服に滲んできた。刃先から柄を伝って、細い血がポタリと落ちてゆく。

 やべぇ、思いっきり刺されちまった。俺、ススキにそんな表情をさせるつもり、なかったのにな。

「うがっ……」

 立っているのがツラくって、膝からゆっくり崩れ落ちたぜ。冷たい地面に両手をつき、ナイフが深く刺さらないように仰向けに転がる。

 冬の大地が背中を冷やすってのに、刺された熱が収まらねぇ。

 どっかの小説に溶岩を抱え込んだようって描写があったっけ?

 さすがに溶岩はありえねぇけど、腹ンなかが大火事だぜ。どんどん燃え移っているみてぇだ。

 荒く呼吸をするたびに、白んだ息が消えてゆく。

 俺の命も、この息のように消えちまうのか。

「まっ、魔王の血も赤いのね。まるで、人間みたいじゃない」

 見上げると、震えたススキが暴言をはいてきた。だが言葉とは裏腹、今にも崩れ落ちそうな儚さ(はかな )(まと)っている。

「人間みたいじゃなくて、人間だかんな。チャンスだぜ、今なら魔王を討伐できっぞ」

 こんな死にかけの状況で、何を啖呵はいてんだか。強がっている場合じゃねぇのに。

「なんでそんなに魔王にこだわるのよ。もう死にかけでツラそうじゃない。どうして、魔王って形でヴェルダネスを侵略したのよ!」

 フルフルと首を振るたび、黄土色のサイドテールが揺れ動く。

 あぁ、魔王(そこ)だったのか。ススキがどうしても受け入れられなかったものは。イッコクの人間だもんな。魔王には(くっ)したくねぇか。

 気持ちはわかった。けど、俺も(ゆず)れねぇとこなんだ。魔王はよぉ。

「魔王って形じゃなきゃ、意味がねぇかんな」

「ふざけないでよ。あたしにすら刺されて死にかけているのに、大層なものを目指さないでよ。せめて普通の王だったら、あたしだって……」

「ははっ、ソレこそゴメンだぜ。確かに俺は弱ぇし、家族からは最弱だって言われ続けてる。けどな強いだけじゃ、魔王は荷が重いんだ」

 不意に、チェルの寂し気な表情が脳裏に浮かんだ。

 まだくたばるわけにはいかねぇよな。ここで終わったら、中途半端すぎる。けど、この危機を乗り切れるか。

 ススキを見る限り、ダメ押しのトドメにくることはなさそうだけど。いかんせんコレだけで致命的だ。

 なんか頭もボーっとしてきたし、寝そうかも。

「父上っ!」

「父さん、しっかり! このみすぼらしい小娘がっ!」

 シェイ、グラス!

 慌ただしい足音に、嫌な予感がよぎる。無理やり視線を向けると、シェイとグラスがススキに迫っていた。

 いけない。その決着だけはダメだ。

 驚愕(きょうがく)に身体を固めるススキ。二人の攻撃が届こうとした瞬間、クモの糸が絡みついて動きを止めた。

「キヒヒ。何一撃で終わらせよぉとしてんだよ」

「そうだよー。パパをこんな目に合わせたやつなんだよー。生きてることを後悔するぐらいー、ジックリと痛めつけないとー」

 楽しそうに笑うデッドに対して、ヴァリーの表情は狂気に歪んでいた。もっとダメなヤツだ。

「シャイントルネード!」

「のわぁあ! それはあんまりっ……おぉぉぉお!」

 エアの声が聞こえたと思ったら、シャインがスクリュー回転しながら地面に墜落してきたぜ。とっさに四人の子供たちが避けると、空を見上げた。

「そんなことしてる場合じゃないよ。父ちゃん助けなきゃ」

「ちょっと待てエア。シャインを武器として地面に叩きつけなかったか」

 デッドのツッコミはもっともだ。シャインの使い方が(ひど)くないか……あれ俺、使い方って思ったか。扱い方じゃなくて? まいっか。

「シャインはそんなもんじゃ死なない。けど父ちゃんは危ないよ」

 どういう理屈だ、と思いながらシャインに目を向けてみた。地面に頭から突き刺さってやがる。ピクピク痙攣(けいれん)もしてっぞ。

 俺、アレより重症なのかよ。

「パパっ! フォーレ急いで!」

「わかってるよぉ。今度こそぉ、あたいの手で助けてみせるよぉ」

 最後に現れたのは泣き顔のアクアと、いつになくキリッとしたフォーレだった。

 フォーレは俺の傍に座り込むと、治療道具を出し始めた。

「父さん……で、ヴァリー。この娘にどう落とし前をつけさせるんだ」

「まずは足からズタズタに斬り裂いちゃおうよー。腕は複雑骨折がいいかなー」

 キャハっと暗く笑うヴァリーに、ススキは怯えちまっている。

 まだだ、まだ俺は部外者になっちゃいけねぇ。

「やめろテメェら。ススキは、俺の相手だ。手を出すな!」

 気力を振り絞って、大声で訴えたぜ。全員が、俺に注目する。

「ジジイ。かっこつけるならせめて、立ち上がる素振りをぐらいしてからにしろよ」

「呆れた目で見んじゃねぇよ。とにかく、俺がいいと言うまで手出しすんじゃねぇぞ」

 俺にはこれが、いっぱいいっぱいなんだかんな。疲れたし、もぉ寝よ。みんないるから、大丈夫だよな……


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ