213 サマネアの歴史
「改めてぇ、おっきな樹だねぇ」
幹に手を当てながらぁ、太さに驚愕したよぉ。あたいが両手を伸ばして三人並んでもぉ、まだ直径には届かなぁい。
木肌はガサガサに荒れているんだけどぉ、力強い脈動を感じるよぉ。
「フォフォフォ。のんびりとよく来たのぉ。悪しき者、そして緑に愛されし娘よ」
皺枯れたぁ、渋ぅいおじいちゃんの声だったぁ。道中の木々と違ってぇ、はっきり喋っているよぉ。年季を感じるねぇ。
「確かぁ、サマネアだったっけぇ。あたいがくるぉ、遅かったかなぁ」
神獣を呼び捨てで呼んだらぁ、背中から鋭い視線を感じたよぉ。ホントに怒りっぽい巫女さんだなぁ。カルシウムが足りないよぉ。
「なぁに、構わんよ。長年生きてきた身じゃ、数時間ぐらいは数秒と変わらんよ。森の木々たちも喜んでおったからのぉ」
会話は筒抜けだったみたいだねぇ。まぁいいけどぉ。
「サマネアは何歳ぐらいなのぉ」
「そうじゃのぉ。千から先は数えるのが面倒になったからなぁ」
千年までは数えていたんだねぇ。でもぉ、途中で数字が狂いそぉ。
「いちいち数えていただなんてぇ、暇だったんだねぇ」
正直な感想を伝えたらぁ、フォッフォって高笑いされたよぉ。おおらかな性格だねぇ。後ろの殺気立った巫女とはぁ、大違いだよぉ。
って言うかぁ、口を挟んでこないねぇ。サマネアの前だから控えているのかなぁ。
「ワシは見ての通り根づいてしまった身だからのぉ。指摘された通り暇なんじゃよ」
「そっかぁ、退屈だねぇ。でもぉ、だからって油断はできないでしょぉ」
傘のように陽を遮っている葉っぱや枝もそうだけどぉ、根づいている根っこも相当な範囲だもんねぇ。
ニコリと微笑むとぉ、やわらかな雰囲気が少し濁った気がしたよぉ。
「さすがは緑に愛されし娘か。気づいておったのじゃな」
「まぁねぇ。神域そのものがぁ、サマネアの射程だよねぇ。あたいは処刑台に立っているぅ、囚人ってところかなぁ」
その気になればぁ、神域の全てから刃を向けられるぅ。ついでにぃ、巫女もついているしねぇ。
「脅すつもりはないが、そう思ってもらって構わんよ。なんだったら、力試ししてみるかい」
「遠慮しておくよぉ。いい勝負はできそぉだけどぉ、あたいも無事じゃすまないからねぇ」
「アンタさっきから失礼すぎるわよ。神獣サマネア様のことを呼び捨てにするは、舐めた態度で会話をするは、挙句には戦ったらいい勝負になるだなんて、ふざけんじゃないわ!」
せっかく口を噤んでいたのになぁ、ついに巫女がブチギレちゃったよぉ。
「巫女キナハトや、そう怒るでない」
「しかしサマネア様。こやつは無礼がすぎます」
敬語になったぁ。言葉はちゃんと使い分けているんだねぇ。
「構わんよ。いいから下がりなさい。そなたが口を挟むと会話がままならんわい」
巫女……キナハトはぁ、唇を悔しそぉにギリッと噛んでぇ、あたいを睨みながら下がったのぉ。
「やれやれ。エルフたちは普段おだやかじゃが、ときおり頑固で言うことを聞かんくなるのが難点じゃな。おかげで迎えに出すのもままならんわい」
「ご苦労様だねぇ。でぇ、話ってなぁに?」
首を傾げて見上げるとぉ、おお、そうじゃったって思い出したのぉ。
「単純に気になってのぉ。魔王はヴァルト・ディアスを、エルフたちを攻めるつもりか」
口調こそ穏やかだったけどぉ、空気は重くなったよぉ。下手に嘘をついたらぁ、身体中を枝や根っこで突き刺されそぉだねぇ。
「今の魔王はそんなつもりはないよぉ。もぉすぐ勇者に討伐されるだろぉしねぇ」
後ろ向きな答えにぃ、後ろのキナハトが鼻を鳴らしたのぉ。きっと胸も張っているんだろぉなぁ。
「ほぉ。ならばなぜ、緑に愛されし娘はここにきた?」
「近い将来にぃ、エルフを侵略するためだよぉ。たぶんあたいが頭にになっていると思うなぁ」
息を飲むキナハトに対してぇ、サマネアは落ち着いていたよぉ。
「矛盾が生じておるが、嘘もついておらんな。説明できるかのぉ」
「魔王の世代が交代するんだぁ。一緒にいたおとーが新しい魔王になるのぉ。そしたらあたいもぉ、動くだろぉねぇ」
「フォッフォ。あの冴えない男がか。器ではなかろうに。して、なぜに侵略を企む。人を蹴散らす愉悦が故か」
愉快に笑いながらもぉ、気配だけは刃を突きつけてきたよぉ。喉が渇いちゃうねぇ。怖気たら負けかなぁ。
気合の笑顔を携ええてぇ、堂々と胸を張るよぉ。
「サマネアなら知っているんでしょぉ、魔王と勇者の関係をぉ」
「まぁのぉ。じゃが、ソレは質問の本質ではない。そなたの気持ちを問うておるのだ」
「だったらぁ、答えは一つだよぉ。おとーが魔王になろうと意地を張っているんだからぁ、全力でサポートしたいのぉ。だってぇ、大好きだからぁ」
傍にいるだけで安心することができるんだもぉん。挑戦もしているしぃ、うまくいくように支えてあげたいんだぁ。
淀みのない答えにぃ、サマネアはほがらかに笑ったよぉ。
「そうか。父親のためか。ならば存分に力を発揮するがよい。楽しい時間だったぞ」
納得してくれたみたいだねぇ。森の殺意が消えたよぉ。巫女は殺意に満ちているけどねぇ。
「こっちもぉ、有意義だったよぉ。今度会うときは、敵同士だねぇ。キナハトもねぇ」
振り返ってぁ、緑の視線を正面から受け止めたよぉ。
「フン。サマネア様の手前、今は身を引いてやる。だが次は射抜くからな。絶対だからな」
「わぁ怖ぁい。そのときはおてやわらかにねぇ。後ぉ、あたいはフォーレだよぉ。覚えておいてねぇ」
「フォーレ、忘れたね。用が済んだら神域から出ていけ」
あららぁ、嫌われちゃったぁ。けどぉ、おもしろいライバルになりそぉ。
ワクワクしながらぁ、背を向けてのんびりと帰っていったよぉ。木々の導きでぇ、真っ直ぐに出口へ向かったんだぁ。
神獣や巫女はともかくぅ、家族は待たせられないもんねぇ。
みんなと合流する頃にはぁ、空がオレンジ色になっていたぁ。
おとーは泣きながらぁ、あたいを抱きしめたよぉ。
喉が渇いたからぁ、アクアにお水を要求したんだぁ。アクアは呆れながらもぉ、お水を五杯出してくれたのぉ。
そんなこんなでのんびりぃ、イッコクのヘソへ帰っていったんだぁ。




