202 貴族格差
「アンナあなた、コンテストに参加しているのね。顔を見かけてビックリしたわ」
「そうそう。弱小貴族でありながら、よくもまぁ参加費を出せたわね。そこだけは感心してあげるわ」
「でも相当、背伸びしているんじゃない。アンナなんかのためにあんな大金をはたいたんだから」
声の出所に近づくとー、おもしろい現場ができあがってたよー。これアレだよねー、いじめだよねー。
曲がり角から覗き込むとー、派手なドレスを着飾った三人の女の子がー、控えめなドレスを着ている一人の少女に迫っていたのー。
いじめられている方は自信なさげに俯いてー、肩を震わせていたよー。
「うっ、私たち家族は位が高い家じゃないけど……でも参加ぐらい……」
「黙りなさい!」
言葉を遮る一喝にー、アンナはヒッて悲鳴を上げて怯んだよー。言い分も聞かせてもらえないみたいだねー。
「用紙には確かに自由参加を書いてあったわ。でも暗黙の了解があるの。アンナみたいな意地汚い家の子が参加していいコンテストじゃないのよ」
「そうよ。場の空気くらい読みなさいよね。あんたなんかがステージに立っても恥を晒すだけだわ」
「寧ろ私たちの気品まで下げる危険もあるわ。アンナ一人のせいで風評被害なんて受けたくないもの。今すぐ辞退しなさいよ」
そーよそーよってまくし立ててるよー。アンナってば瞳を潤ませて今にも泣きそうだしー。こういうの見てるとー、ヴァリーちゃん思っちゃうんだよねー。
笑顔をキープしてー、廊下の角から踊り出たのー。
「キャハ。みんなして何やってるのー。ヴァリーちゃんにも教えてほしーなー」
いじっめ子たちが驚きの表情で振り向いたよぉ。あんまり見られたくない現場だったみたいだねー。
けどヴァリーちゃんを見てー、すぐに見下すような悪い顔になったのー。
「別にあなたには関係ないわよ。っていうかここ、関係者以外立ち入り禁止よ」
「一般市民が気軽に入っていい場所じゃないの。さっさと出て行きなさい」
「そーよ。警備兵を呼ぶわよ」
衣装で格下って判断したみたいだねー。見た目で判断するなんてーって言いたいところだけどー、貴族は着飾ってなんぼだもんねー。
「呼んでもいいけど無駄だよー。だってー、ヴァリーちゃんも参加者だもーん」
声色に甘さを混じらせてー、クルリと回りながら教えてあげたのー。スカートがヒラリとしたよー。
「まさか。一般市民に払える額ではないわよ」
「それに、なんのコンテストかわかっているの。子供の遊び場じゃないのよ」
「そーよ。あなたもアンナと同じで、恥をかくのがオチよ」
何かボロを見つけてはー、ヴァリーちゃんを蔑んでくるねー。けど気にしないよー。明るい笑顔は常にキープなんだからー。
「そうかもねー。ヴァリーちゃんは異質だからー、恥をかくだけかもー」
「わかっているなら話が早いわ。さっさと辞退しなさい」
ちょっと弱気なこと言っただけでー、調子に乗り出したねー。
弱小動物を狩る獰猛な笑顔でー、ステージから蹴落そうとしてきたよー。
「なんでー? 恥をかくだけかもしれないけどー、辞める理由にはならないよー。だって参加することに意味があるんだもーん。恥をかくならー、盛大にかいてやるよー」
胸を張って堂々と宣言すると―、いじめっ子たちは後ずさったよー。もうちょっとヴァリーちゃんの胸が育てばセクシーに見えるんだろーなー。
すぐにフォーレを追い越して見せるんだからー。
「それとねー。そこの子ー、アンナだったっけー」
「えっ、私?」
呆然と聞いていたアンナがー、自分を指差して首を傾げたのー。
「そーそー。みんなで寄って集って何をしていたのかなー?」
ご機嫌に声を弾ませて聞いてみるとー、いじめっ子たちは気まずそうに視線を泳がせたよー。なんか勘違いしちゃっているみたーい。
「ヴァリーちゃんは別に責めるつもりもー、告げ口するつもりもないよー。楽しそうだから混ぜてほしーなーって思っただけだもーん」
四人のえっ? が重なったよー。そんなに意外なことを言ったつもりないんだけどなー。キャハ。
「さっきやってたのって弱い者いじめでしょー。ヴァリーちゃんねー、そういうのだーい好きなのー」
最大級のフレンドリーな笑顔でー、いじめっ子に近寄ったのー。
「あなた気味が悪いわ。もういい、さっさと参加して恥かいてきなさいよ。行くわよ」
まるで気持ち悪い虫を見たように顔を引きつらせるとー、フンと首を振って逃げるように控室へ帰って行ったのー。
カツカツと不機嫌そうに靴を鳴らしたよー。
「ちぇー、つまんないのー。楽しめると思ったんだけどなー。ねー」
アンナの方を振り返るとー、怯えるように肩をビクつかせたのー。
「わっ、私に言われても……もしかして、あの人たちを追い払ってくれたのー?」
怖じおじしながら上目づかいに訪ねてきたねー。何を期待しちゃってるんだろー。
「まさかー。ヴァリーちゃんも一緒にいじめたかっただけだよー。さっきも言ったけどー、弱い者いじめ大好きだからねー」
「そ、そう」
引きつりながら相槌を打ったねー。
「ねぇ、あなたもコンテストに参加するの。その、怖かったりしない」
視線をキョロキョロ泳がせながらー、心の支えを求めるように聞いてきたねー。
「怖くないよー。ビクビクしてたら勿体ないもーん。寧ろ楽しみだなー。じゃーヴァリーちゃんは戻るねー」
「あっ、ちょっと……」
もうすぐ始まるだろうしねー。呼び止める声も聞こえていたけどー、ヴァリーちゃんたちのパフォーマンスを見せつけた方が早いもんねー。
さー、もうすぐ始まるよー。




