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俺が異世界で魔王になって勇者に討伐されるまで  作者: 幽霊配達員
第2章 建築!!魔王城『タカハシ』
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198 サプライズ

 コーイチが子供たちとショッピングに行くなか、私は宿に残ってお留守番をしていたわ。狭い部屋のテーブルに着いて、ひっそりと窓の外を眺める。

「のん気なものね。なんの知識もないのに街に()り出そうだなんて」

 魔王になろうというのに、勉強を何一つしないのだから。

「本当に魔王になる覚悟があるのかしら。侵略地の一つどころか、未だにイッコクの文字すら覚えていないのに」

 この私が口を()っぱくして言っているというのに、何食わぬ態度でなかったことにするだなんて。

 ごまかそうとする仕草を思い出したら、また腹が立ってきた。

「顔を合わせたくなかったから、つい留守番をしてしまったわ」

 けど退屈ね。とっさとはいえ、(あさ)はかだったかしら。

 ポツンとしていると、誰かの温もりを求めている私に気づく。寂しい、のかしらね。

 窓の外に見える空が、寒々しく映ってしまうわ。

「やっぱり、コーイチに魔王は荷が重いのかしら。けど、子供たちは着実に力をつけている」

 ステータスはコーイチから聞いていたけど、数字の羅列(られつ)だけでは実感ができなかったわ。エアが神獣を倒すまでは。

 もちろん一緒にいて、肌で成長を感じることもあったわ。けど、まさか一人で神獣に勝つまで強くなっていただなんて。

「子供たちの特性(とくせい)は違えど、強さに差はあまりない」

 つまり全員が神獣と()り合える実力を備えている。

「コーイチが魔王になれば、魔王史上最大の戦力を誇ることになってね。魔王こそ実力がないのが、なんとも滑稽(こっけい)だけれども」

 だからといって私が魔王になったら、子供たちは戦力になってくれるかわからない。コーイチ個人に負けるなんてありえないけど、総合的にはコーイチの方が……強い。

(くや)しくはないのだけれど、もどかしくってね。どうして、弱い男に頼らなければならないのかしら」

 何一つ実力がないクセに、不意に心のなかへ踏み込んでくる臆病(おくびょう)な男。

 最強の(つわもの)を従える、最弱の男。

 その(ふところ)の深さとやさしさだけで、魔の頂点に君臨(くんりん)しようとする男。

「そしてそれを、私は従える女にならなければならない」

 お母様。男を思い通りに操るのは、なかなか骨が折れてよ。

 深いため息が出ては、何もないテーブルへと消えていったわ。

 コーイチを(かい)さなければ、子供たちは私の戦力にならない。コーイチは力を持っているのに、上に立つ努力を怠る(おこた )

「せめて、ちゃんと自覚を持って努力をしてくれればいいのに。そうすれば私だって……」

 私だって……何? コーイチを受け入れられるとでも言うつもりだったの?

 人の気も知らないで街へと遊びに出かける男なのに。

 フフッて苦笑するんだけど、ちゃんと笑えている気がしないわ。

 ドアからコンコンと、控えめなノックが聞こえてきた。

「チェル。俺だ、入ってもいいか」

 コーイチね。もう帰って……

 顔を上げると、()(かた)いていることに気づいたわ。明かりの()らなかった部屋が、いつの間にか薄暗くなっている。

「……チェル?」

 寂しく消え入りそうな声で呼ばないで。手を差し伸べたくなってしまうじゃない。顔も見たくないのに。

 思いとは裏腹(うらはら)、身体は勝手に動いていたわ。ドアへと向かい、小さく開いて外を覗く。

 コーイチが片眉を下げて、困った顔をしていたわ。

「どうかして。用がないなら閉めるけど」

「待ってくれ。今日のことは、その……すまなかった」

 黒い視線を泳がせながら、言いにくそうに頭を下げた。

 下手(したて)にでる態度は一人前ね。腹が立つわ。魔王は真逆をやらねばならない存在なのよ。

「それは、何に対しての謝罪(しゃざい)かしら」

「俺が、情けない人間だってこと対して……かな」

 答えを確かめるように、ビクビクしながら顔を上げたわ。一応、理由があるだけ見直してあげてよ。

「まったく。謝るくらいなら、普段からしっかりなさい。子供たちにだけ頼らないで」

「そうだな、みっともない。お()びと言っちゃなんだが……これ、貰ってくれないか」

 ()し目がちに自嘲(じちょう)してから、手に持っていた紙袋を差し出したわ。

 一瞬、ドキッと胸が跳ねた。

「ふふ。私を物で釣ろうだなんて、安く見られたものね」

 悪態(あくたい)をつきつつも、さりげなくプレゼントを受け取る。嬉しくなんて、ないんだから。

「お気に()しませんか、お姫様」

 おどけながら首を(すく)める仕草、ずいぶん余裕じゃないの。

 皮肉(ひにく)を思いながら紙袋を開く。深緑(しんりょく)に輝く石がはまった、ネックレスだった。キレイだけど、呆れたわ。本当に安物だったことと、それなのに心惹(こころひ)かれていることに。

「装飾品屋に入ってな、チェルに似合うと思ったら手が伸びてたんだ。まぁ買ってみて初めて、思ったより安いことに気づいたんだけどな。ははっ」

 頭をかきながらごまかすように笑う。かわいらしく感じてしまったから、ズルいわ。

「呆れた。でも、コーイチにしてはセンスがよくてよ。()めてあげるわ」

「ありがと。ペンダント貸してくれ、俺につけさせてくれないか」

 男性の(わり)に小さくやわらかい手を差し出してきた。弱々しく思いながら、素直にペンダントを預ける。

 腕が首に回って、さえない顔が近づく。汗臭さが少し鼻につくのだけれど、不快(ふかい)ではなくてね。

 手間取っているわね。首の後ろで手がもどかしく動いていてよ。不器用なんだから。

 おかしくって笑みがこぼれた。

 ホントおかしいわ。さっきまで笑うのが難しかったのに、今は自然と口元が緩むんだもの。

「よし、ついた。おぉ、似合ってるぜ。かわいさが一段と増したってやつだ」

「ありがと。お世辞でも嬉しくってよ。自分の買ったものが似合ってなかったら悲惨(ひさん)だものね」

 皮肉を返すと肩を落としたわ。かわいそうには思うのだけれど、この飛び上がるような感情をコーイチに知られたくないもの。せいぜい落ち込んでいなさい。

 胸元で緑に光るペンダントをつまみ、吸い込まれるように見つめる。

「ところで、値段がわからないと言っていたけどどうしてかしら。子供たちが一緒だったのでしょう」

「ん、いや。商業地区ついてから俺一人で行動してたぜ。あいつらに頼りっぱなしの、情けない父親じゃいけねぇかんな」

 ドヤ顔でのん気なことを宣っ(のたま )ていてね。人間の街がどれほど危険かも知らないで。相手が人間だからこそ、油断ならないのに。

 さっきまでの喜びが急激(きゅげき)に冷えていったわ。代わりに芽生えたのは、こめかみをピクピクさせるほどの怒りね。

「あの、チェルさん。なんでこう、おぞましい気を放つのでしょか」

「コーイチが赤子のように危うい行動をとったからよ」

 たまたま無事だったからよかったものを、誰もコーイチについてなかっただなんてね。

 訳が分からない風にオタオタするコーイチ。ふふっ、いいわ。今回のことでよぉくわかってよ。

 私はこの男から、決して目を離してはいけないのだと。

「いいわ。プレゼントありがとう。お礼に、一時(いっとき)もコーイチから離れないであげるわ。ずっと、目を光らせてあげてよ」

「あの、それ……拘束(こうそく)って言うんじゃ……」

 あら、何のことかしらね。ふふっ。

 固まっているコーイチに寄ろうと廊下に出たら、子供たちがみんなして見守っていたわ。

 あなたたちにも言い聞かせるつもりだから、覚悟していてね。

「まったくー。パパってばチェルちゃんの(しり)に敷かれちゃってるんだからー」

 空気を読めないのか、ヴァリーがやれやれのジェスチャーをしたわ。

「パパの用事も終わったみたいだしいいかなー。ヴァリーね、みんなでコレに参加したいんだー」

 踊るように近づいてくると、ヴァリーは一枚のチラシを差し出したわ。

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