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俺が異世界で魔王になって勇者に討伐されるまで  作者: 幽霊配達員
第2章 建築!!魔王城『タカハシ』
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196 鉄壁

 商業地区について父上たちと別れてから、自分はグラスと共に外壁を目指した。

 賑わう人混み。楽しげな喧騒。魔王の侵略なんてまるで、他人事のようです。

「ははっ、待ちたまえシェイ。行きたい所があるならミーがエスコートしようではないか」

 自分はグラスと二人で外壁に向かっています。二人っきりです。間違っても後ろからついてくる何かは一緒にいません。

 振り向いたら、負けです。

「おいシェイ、いいのか。シャインのやつ、このままずっとアピールし続けそうだぞ」

 グラスが迷惑そうに、後ろをチラチラと窺っ(うかが )ています。

 そうですよね。ウザったい男に堂々とストーキングされていては、気になって仕方がないですよね。間違っても身内ではありません。えぇ。

 不思議と歩く足に力がこもってしまいます。油断すると、整備された道を踏み砕きそうで怖いです。

「いや、わかっているんだシェイ。グラスが邪魔なのだろう。ミーと二人っきりになるチャンスを潰されているのが、堪らないのだろう」

 ブツンと何かがキレる音が聞こえました。反射的に魔法(やみ)を使わなかった自分を褒めたいぐらいです。振り向いてはしまいましたが。

 鉄壁です。自分とコイツとの間には鉄壁があるのです。決して破れない強固な鉄壁が。だから絶対に近づくことはありません。

「そろそろ黙って、一人で街をブラついてはくれませんか。せっかく街に出ているのです、ハメを外してナンパに明け暮れるのも許してあげます」

 だから、自分の視界からさっさと消えていただきたい。歯を食いしばって我慢するのも、限界に近いのですから。

「おっ、おい。シェイ……」

 おや、何をおろおろしているのですかグラス。まるで秒読みの時限爆弾に怯えているようですよ。

 対してヘラヘラと白い前髪をかき上げるウザったい男は、何にも屈していなかった。

「何をバカな。(いと)しくてやまないシェイを放ってナンパなんて論外だね。見てみたまえ、この美しい街並みを。デートスポットを。新鮮さにあふれているではないか」

「確かに新鮮なことは認めましょう。ただ、あなたが近くにいるだけで(けが)されてゆくのですよ」

 目に力が入って仕方がないのです。だから、消えてください。いえ、消滅(しょうめつ)してください。

 シャインは何もかもわかったように、白い目を閉じてフッと息をはきました。

「それは仕方がない。人は愛故(あいゆえ)(けが)れてしまうものだからね。だが恐れることは何もないよ。(ゆだ)ねればいいんだ。溺れるような甘い感情にね」

 自信に満ちたウインクを放たれた瞬間、脳内鉄壁が音を立てて崩壊しました。

「もう人前とか気にしません」

「落ち着けシェイ、父さんに迷惑がかかるから」

 力いっぱいに握ったコブシを振り上げて駆けたのですが、グラスに羽交(はが)い絞めで止められてしまいます。

「離してください。ちゃんと人気のない路地裏(ろじうら)まで辛抱(しんぼう)しますから!」

「そんな殺意に満ちた目で言われて安心できるわけないだろ。それに今まさに殴ろうとしてるじゃないか」

「離してやりたまえグラス。シェイは人目のつかない二人っきりになれる場所で、ミーと愛を語らいたいと言っているのだ。空気は読むべきだよ」

「お前はそれ以上しゃべるな!」

 あたりが騒然(そうぜん)として注目の的にされていますが、もはや知ったことではないです。

「目の前のバカを殲滅(せんめつ)させます。だから離してください」

「シェイも落ち着けぇ」

 何分ぐらいでしょうか。自分が冷静になるまで、グラスに抑えられて暴れていたのは。

 シャインを葬れ(ほうむ )なかったのは残念ですが、人間の街で刃傷沙汰(にんじょうざた)にならなかったのでよしとしましょう。

 結局、三人で外壁の近くまで歩きました。不服ではありますが。

「改めて、外壁の強固(きょうこ)さを窺えるな。この壁があるから、ハード・ウォールは平和なのだろう」

「絶対の守りがあるからこそ、人々は安心して日々を過ごしているのでしょう」

「危険のカケラも感じていなそうだったからね。いいことじゃないか」

 シャインはのん気なものです。事の重大さに気づいていないのですから。

 チラリとバカ(づら)を覗くと、調子よく微笑みを返してきました。

 いけない。また手に力を込めてしまっていた。

「それだけ、あの外壁を信頼しているのだろう。もしくは、依存かもしれないが」

「魔王の進行を防いでいる。越えるには骨が折れるでしょうね」

 グラスはフムと一拍(いっぱく)おくと、視線を壁から下ろしました。

「シェイは、シャトー・ネージュを侵略するのだろう。勝算はあるのか」

「今は無理でしょう。ですが、策は考えています」

 父上が魔王になるまでに、実現できるよう成長せねばいけませんが。

「そうか。ハード・ウォールは誰に任せるんだろうな」

 思案顔でグラスは、開いた手を見つめます。恐らくは、自分の力でどれほどできるかを想像しているのでしょう。

「ミーは違うだろう。この前デザート・ヴューを任されたばかりだからね。砂漠に愛の楽園を作るのさ」

「シャインに聞いていません」

 しかし、また酷い妄想を企て(くわだ )ていますね。侵略にはなりそうですが、同意しかねます。

「まだ侵略地を貰っていないのは、俺とフォーレとヴァリーだ。そして偵察旅行に行った場所を、父さんは侵略するつもりだ」

「となると、この城壁を父上が誰に任せるか……ですね」

「俺は挑戦したい。けど、父さんが決めるなら誰でも構わない」

 再び、挑むように城壁を見上げました。

 けどグラスは、できることなら自分の手で鉄壁に挑みたいのでしょう。

 城壁の向こうの空は、少しずつ色を薄めていきました。

「帰りましょう。父上の元へ。考えていても仕方ありません」

「……そうだな」

 踵を(きびす )返して集合場所へと足を動かしました。途中、馴れなれしく肩に手を回してきたシャインが、本当にウザかったです。

 ふふっ。イッコクのヘソに帰ったときが楽しみですよ。


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