195 少女三人のウィンドウショッピング
商業地区でパパと別れた私は、エアとフォーレと一緒にウィンドウショッピングに向かったの。
甘い匂いに誘われるように、クレープ屋の列に並んでいたときは驚いたな。三人で別々の味を買って、食べ歩きしているの。
「クレープおいしいね。ブルーベリーの甘酸っぱさとクリームの甘さのマッチが最高だよ」
クレープをはむはむと食べ進める。一口食べる度に口のなかが甘さで包まれて、幸せな気分だよ。
ブルーベリーのツブツブした触感もおもしろいし、飽きないなぁ。
「へー、アクアの一口ちょうだい。ウチのバナナクリームも一口あげるから。こっちもおいしいよ」
「ホント。じゃあ分け合っこしよ」
「ありがと。はい、あーん」
エアがニコリと笑って、手に持つクレープを口元まで伸ばしてくれた。口から直接、パクりとする。
バナナの塊がすごく存在感ある。風味も強くて甘いよ。クリームも甘いんだけど、全然くどくない。手を取り合って踊っているようなコンビネーションがあるよ。
「アクアってかわいいよね。幸せそうに顔がほころんでるよ」
「えっ、ほんとエア」
指摘されると急に恥ずかしくなってきたよ。私、そんなにわかりやすかったのかな。なんか顔が熱くなってきた。
「うん。ほんとほんと。ほら、アクアのもちょうだい」
「あ、うん」
貰いっぱなしはよくないもんね。
顔のほとぼりが冷めないまま、エアと同じようにクレープを伸ばした。
「はむ。んぐんぐ……うん。ブルーベリーもおいしいね」
首を伸ばして啄むように一口持っていくと、エアは笑顔に花を咲かせる。
「もー、エアだってわかりやすいよ」
「だっておいしいんだもん。隠すこともないしね」
ほわぁ。エアは私と違って堂々としているなぁ。羨ましい。前向きだし、頼りになる。背が小っちゃいのもかわいいなぁ。
「アクアぁ、あたいにも一口ぃ。キウイ味をあげるからぁ」
エアとの間を、フォーレがズイっと割って入ってきた。
「うん、いいよ。はい」
フォーレの口元にクレープを持っていくと、わぁいと喜びながらパクついた。モムモムとゆっくり味わってから飲み込むと、にへぇとゆるく微笑んだよ。
「おいしぃ。糖分さいこぉ。はいおかえしぃ」
「ありがとフォーレ。あむっ……うん。キウイも風味があっておいしいね」
控えめだけど、クリームに混じっているふんわりしたキウイの風味が鼻孔に届くよ。アリだね。
果肉も入っていて、ツブツブと細い種の存在感が強い。
「そっちもおいしそうだね。フォーレ、ウチにも一口」
「いいよぉ。エアのもちょうだぁい」
エアとフォーレも一口ずつ分け合う。お互いに食べさせ合う姿は、微笑ましいほど仲良しさんだった。つい口元が緩んじゃうね。
クレープがなくなるまで、ウィンドウショッピングを楽しむ。
「あぁ、お花屋さんだぁ。お部屋で植木を育ててみたいなぁ」
「あっちにはかわいい小物のお店もあるよ。個人部屋があったら買っちゃってたかも」
人間の街には興味を引くものがいっぱいあって、ついつい目移りしちゃったよ。見て回るって、すごく楽しい。
「アクセサリーのお店もあるよ……って、あれ?」
「あっ、父ちゃんだ。父ちゃんもかわいい装飾で着飾りたいのかな」
パパが緑色のペンダントを買っているところだった。そんな趣味があったなんて知らなかったなぁ。後でパパにプレゼントする装飾を探そうかな。
「違うと思うけどぉ、おもしろそうだねぇ。おとーに秘密でぁ、三人でプレゼントを贈ろぉよぉ」
「いいね。じゃあ、こことは違うお店で装飾を買わないとね。サークレットなんかちょうどいいかも」
フォーレの提案にエアも乗り気だ。二人とも普段より楽しそうに笑っていた。きっとパパが喜ぶ姿を想像しているんだろうな。
「うん。私も一生懸命、パパに似合うの探すね」
両手を胸の前でガッツすると、三人で手を取り合った。
目的地が決まったから、本格的に探し始める。けど、思ったより多くないのか、装飾品店は見つけられなかった。
「おっかしーな。さっきまでたくさんあった気がするんだけど」
「探し始めた途端にぃ、見つからなくなるなんてぇ」
「んー、困っちゃうなぁ。あっ!」
立てた人差し指をあごにつけながら探していたら、とあるお店が目についたよ。
「なになに、見つけたのアクア」
「あれぇ。装飾品のお店にしてはぁ、物々しい気がするなぁ」
看板には二本の剣がクロスして掲げられていた。なかを覗くと、剣とか斧といった武器が並んでいるよ。
鎧姿の逞しいお客さんたちが、武器を吟味しているね。
「えっと、装飾品はないかもだけど、覗いてみてもいいかな」
普通の槍が気になるんだよね。いつも使っているのはスキルで作った水の槍だから、違いを知りたいなぁ。
「あはは、ある意味アクアらしいかも。いいよ、ひやかしていこ」
「だねぇ。せっかくだからぁ、気の済むまで見ていこっかぁ」
「ごめんね、ありがと。エア、フォーレ」
実際の槍は大きくて重くて、振り回すのは苦労しそうだった。エアとフォーレもいろいろ武器を触ってみたけど、どれもシックリこなかったみたい。
感想を言い合ったり感触を確かめたりで、とても楽しかったな。
周りからは不思議そうに見られていたけどね。でも、これてよかった。
ただ、ジックリ見ていたら時間が無くなっちゃったのが残念かな。




