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俺が異世界で魔王になって勇者に討伐されるまで  作者: 幽霊配達員
第2章 建築!!魔王城『タカハシ』
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189 生なる禁忌の能力

「ぁ……泣かないで、おねぇちゃん」

「サミーカ」

 泣き崩れていた少女が弾けるように振り返ると、サミーカの元へと駆けつけた。しゃがみ込んで顔を近づける。

 ミーも近寄った。改めて、酷い状況じゃないか。

 ちゃんとご飯を食べて、肌を整えたらすごくかわいくなるだろうに。惜しくて堪らないね。

「おねぇちゃん。わたしね、おねぇちゃんの妹で幸せだったよ……」

「サミーカ。何を言っているの。今はそんなこと聞きたくない」

 あぁ、理解しているんだ。姉も妹も。ここがお別れの瞬間(とき)なのだと。

 だから思いを伝える。だから否定する。生を、死を。

 少女たちは死にゆく瞬間でさえ美しいものだ。部外者のミーは、静かに見届けるしかない。

「聞いてよ。一生のお願いだから。おねぇちゃんに聞いてほしい……」

「そんな言い方しないで。変なことはお願いしないで。お願い、生きて……」

 顔は悲しみでグチャグチャに歪んでいる。だがそれを、誰が醜い(みにく )と言おうか。もしそんなことを言う輩が(やから )がいたら、例え女性でもミーが黙らせよう。

「ごめんね。できるならわたし、おねぇちゃんと一緒に生きたかったな……」

 サミーカは夢を語るように、思いをはき出す。祭りで買った風船がしぼんでいくような儚さ(はかな )を感じてしまう。

 そんな描写が、どこかのアニメであった気がした。

「生きようよ、一緒に。諦めないで」

 細く小さな手を握りながら、必死に呼びかける。けど、サミーカも首を縦に振れないだろう。振るわけにはいかない。

「っ……あんた金持ちなんでしょ。お願い助けて!」

 さっきまで()み嫌っていた金持ち(ミー)お願いするほど、気持ちが追いつめられたようだ。できることなら手を差し伸べたい。

「残念ながら、それはできないね」

「お願いっ! サミーカが助かったのならわたしはどうなってもいいから!」

「落ち着きたまえ。例え今ミーが助けたとして、その後はどうするつもりだい」

 必死の叫びが、疑問で硬直した。

「例えばどうにかして、一週間分の食料を用意したとしよう。けどミーは旅行者の身だ。いなくなり、食料を失えばまた同じ悲劇が待っているんだ」

「そ、それは……」

 小さくなった赤茶の瞳孔(どうこう)が、動揺にブレ動く。

「根本をどうにかしない限り、悲劇は何度でも襲ってくる。今ここだけを乗り越えても、おそらくは長く持たないだろう」

「ぅっ……ぁっ……あぁ……」

 言葉にできない絶望を感じ取れる。少女は再びサミーカの手を握った。

 この瞬間だけなら、ミーのユニコーンホーンで助けることはできるだろう。

 だがこれはミー専用のスキルだ。例えレディが相手でも他者に使用はしない。オヤジだって助けるつもりはなかった。

 なぜなら、あまり褒められた能力(ちから)ではないからだ。制限をかけなければ、きっとイッコクは狂ってしまう。

「おねぇちゃん、わたしの分まで、生きて幸せになってね……」

「待って……待ってよぉ……」

 サミーカは表情を少しだけ変えた。笑おうとしたのかもしれない。間違いなく、最後の気力だ。

 そして目を閉じると、身体から力が抜けていった。

「サミーカっ。サミーカ……うわぁぁぁ」

 少女はサミーカに抱き着き、部屋中に声を響かせた。悲しみを、怒りを、無力さを、そしてやるせなさをぶつける様に。

 逝ったか。最期の瞬間だけとはいえ、サミーカの美しい生き様はミーの心に刻ませてもらったよ。


 ミーは少女が泣き止むまで一緒にいた。

 これからどうするのか聞くと、生きると一言だけ答えた。その眼は、イッコクという世界に殺意を向けているように、険しくとがっていた。

「もしよければ、一緒にミーのいる村まで来ないかい。家と職を用意するよ」

「今更、施し(ほどこ )なんて要らない。食べ物を盗んででも、人を殺してでも生き抜いてやる」

 石を砕いて作った原始的な刃物のように、声色がとがっている。

 少女は顔も向けずに宣言すると、サミーカを抱いて家から出ていった。

 一人で弔う(とむろ )つもりだろう。これ以上は介入できない。やれやれ、ままならないものだ。

 首を横に振って感傷に浸る。

 これがデザート・ヴューの、イッコクの現状か。

「かなり時間を過ごしてしまったな。プリンセスチェルの元に帰らねば」

 大切な姉妹たちを心に思っても、テンションをあげられないとは。きっとサミーカはミーの心に残り続けるだろうね。

 オヤジの元に戻ると、すぐさまヴェルダネスへ帰ることになった。フォーレが暑さで限界だったね。

 ちょうどよかった。ミーもゆっくり、心の整理をしたかったからね。


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