表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺が異世界で魔王になって勇者に討伐されるまで  作者: 幽霊配達員
第2章 建築!!魔王城『タカハシ』
187/738

186 砂漠の格差

 町に入った俺たちは、どうにか人を見つけて休憩できる場所を聞いたぜ。

 薄汚れたボロ布のみたいな服を着た、やせ細ったおばさんだった。目は枯れたように輝きを失っていて、気力ってやつが根こそぎなくなっているようだ。

 褐色の肌は砂漠らしいと思ったけど、それくらいしか地方の違いを感じられなかったぜ。

 おばさんは俺たちのことなんて、どうでもよさそうに答えた。

 近くにある家を二・三軒示しながら、あそこらへんの家は全部空き家だと教えてくれた。

 なかがどうなっているかは知らないけど、好きに使っても問題ないんじゃない。となげやりに言い捨てて、フラフラとどっかに歩いていったぜ。

 近くにいるだけで、活気を持っていかれるような脱力を覚えた。

 何はともあれ、ようやく落ち着くことができるってもんだ。

「わぁ。家のなかはぁ、思ったより暑くないんだねぇ。けどぉ、ちょっと埃っ(ほこり )ぽいかなぁ」

 ヘトヘトのフォーレは、感想を漏らしながらカビ臭いベッドへダイブした。ボフっとした衝撃で砂埃が舞う。

「ねぇフォーレ。汚れちゃうよ」

「わかってるけどぉ、起き上がるよりマシだねぇ」

 フォーレはとっくに体力の限界だったようだ。衛生面(えいせいめん)が気になるけど、とりあえず休ませておこう。

「にしても、ホントに無人だったな。助かったちゃぁ助かったけど」

「でも、不自然ね。確かに部屋全体が薄暗くて埃っぽくはあるけど、調度(ちょうど)類が一式揃っているもの」

「まだまだ使えそうです。掃除さえすれば快適に過ごせそうですよ」

 チェルの疑問に、シェイがテーブルを触りながら答えた。

「休憩するだけなら可能だろうな。けど、食料はカラだったぞ」

 別の部屋からグラスが顔を出した。台所でも探ってきたのだろう。

「ケッ、食うもんがなくなって夜逃げしたんじゃねぇか」

「でもー、オアシスがあるんだよー。家も立派だしー、おかしくないかなー」

「だから、いちいちくっついてくんなっての!」

 デッドがヴァリーを引きはがそうとするが、コロコロと笑いながら食い下がる。

 暑いなか、ホントによくやってくれるなぁ。仲のよさには感心するわぁ。

「とりあえず、風で室内の砂埃を外へ吹き飛ばしちゃおっか」

「やるのはいいけど、ちゃんと手加減しろよ。家ンなかで砂埃が舞ったら目も当てられないからな」

「えー、お約束なのにな」

 わざと失敗するつもりだったのかよ。ご機嫌ななめなチェルもいるんだからやめろよな。

 心配になってチラりとチェルを見る。赤い瞳でキッと睨まれちまった。

「何かあって。まるで猛獣(もうじゅう)が暴れないか心配しているようにソワソワしていてよ、コーイチ」

「いえいえ、なんでもございません。あ、なんなら靴でもお舐めしましょうか」

「つまり、靴を舐めなきゃいけないようなことを考えていたってことね」

 あっ、墓穴(ぼけつ)を掘っちまった。どうにかして気を逸らさない。

「やれやれ、これだからオヤジは。レディの扱いが酷すぎて目を当てたくないね」

 シャインが手でやれやれのジェスチャーをしながら、しょうがないやつと言いたげにため息をはいたぜ。

 てか、後半に常日頃から思っている本音が混じってなかったか。

「あらシャイン。あなたは私をうまくエスコートできて」

「ふっ、勿論さ。ミーのエスコートテクにかかれば、たとえ相手が誰であろうとイチコロさ。そう、生まれたての赤子から幸せ絶好調の新妻(にいづま)までね」

「明らかにアカンやつをストライクゾーンに入れるんじゃねぇよ」

 なぜ赤子や新妻を(うば)おうなんて発想に(いた)れるんだか。シャインに病院を常に携帯させておきたいぐらいだ。

「父上、もしも外で流砂(りゅうさ)を見つけたら教えてくれませんか。シャインとデートしてきますので」

 そのデートを決行したら、確実に一人で帰ってくるつもりだろ。

「いろいろ言いたいことはあるけど、俺に外を一人で出歩いてほしいのか」

 黒い視線に殺意を込めていたシェイだったが、ハッと気づくと肩を落としてしまった。

「それは、盲点(もうてん)でした。すみません、父上を危険な場所に向かわせるつもりはなかったのですが」

「いやいや、それくらい問題ねぇからな。だからそう、本格的に落ち込むんじゃねぇって」

 俺の方が肩を落としたい気分だ。

 てか、その大切さをシャインにも少しは分けてやってくれや。どっちも過剰(かじょう)なんだから。

「やっぱりシャインはいけ好かないのか」

「えぇ、自分の全てが、シャインの全てを否定しています。理由はよくわかりませんし、同時にいろいろありますが」

 どっちだよ。いや、感情の矛盾はあり得るか。シェイの言ういろいろな理由は後づけで、根本は理性が受けつけないってやつなんだろうな。

「やはり、対極(たいきょく)だからかもしれません」

 俯き(うつむ )ながら呟いた言葉は、諦めが含まれていたように感じたぜ。

「さて、プリンセス・チェル。ついでにオヤジ」

 俺はオマケかよ。片眉が下がる思いだ。

「どうかして」

「いや、ミーは一人で町を見て回ろうと思うよ。マイ・シスターたちはお疲れのようだしね。外出許可を願いたい」

 シャインはチェルだけを見て、恭しく頭を下げた。俺を含む男たちをアウトオブガンチューしてやがる。

 とはいえ、みんな疲れているのは事実だ。フォーレは見ての通り、他のみんなも疲れが溜まっている。

「構わなくってよ。ちゃんと戻ってくるならね」

「では、ミーは行ってくるよ。麗しの帰還を待ち遠しくしていてくれたまえ」

 一人元気に笑いながら、外出していったぜ。

「あぁ、これで静かになるぅ」

 フォーレ、本音がダダ漏れになっているぞ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ