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俺が異世界で魔王になって勇者に討伐されるまで  作者: 幽霊配達員
第2章 建築!!魔王城『タカハシ』
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185 枯れた町

 フォーレはだらしなく口を開けて、ヨロヨロと砂漠を歩いていた。眠そうな緑の瞳は、いつも以上に活気がない。

「アクアぁ、おっ、お水ぅ」

「フォーレはホントに大丈夫。地下鉄で休んでいた方がいいんじゃない」

 アクアは心配しながらせっせと水を出していた。さっきからフォーレは水をもらってばかりだ。

 俺も心配だぜ。まぁ、毎回おこぼれをもらっているから助かってもいるんだけどな。

「キヒッ、ダセェなフォーレ。ヘバって倒れるぐらいなら、お(うち)で寝てた方がよかったんじゃねぇのか」

「そう言うデッドだってー、だらしないよー。暑ーい」

「だから、もたれかかってくんじゃねぇ。蒸し暑いうえに汗でベタつくっての!」

 デッドは勢いよく叫ぶものの、すぐに元気がなくなるぜ。ヴァリーと絡むことで余計な体力を消費している。見ていて不毛だ。

 他の子供たちも、やせ我慢している姿や彼元気が目立つ。アクアが(せわ)しなく水をふるまう始末だ。

「一つ忠告をしておくわ、アクア。人気(ひとけ)のある場所では水を出すのは止めなさい」

「どうして、みんな苦しそうだよ。見捨てるなんてかわいそうだよ」

「砂漠では水は貴重なの。お金を出して買わなければならないほど。魔法で水を出せると知られると、とても面倒よ」

 チェルの懸念ももっともだ。オアシスが近くにあるならともかく、道中は何もない砂漠。持ち運べる水にも限りがある。普段の冒険以上に水が貴重なのは言うまでもねぇ。

 現にアクアがいなければ、水なんてとっくに使い果たしてっからな。

 シュンと俯いてしまったアクアの頭を、ポンポンと撫でる。

「アクアが責任を感じるようなことじゃねぇよ。今は助かってるんだから、存分に助けてくれ」

「パパ、うん。私がみんなを助けるね」

 役目があるのが嬉しいのか、ニコリと笑ったぜ。大変そうに魔法を使っているのに、たいしたもんだ。

「アクア、疲れたらミーに言うといい。いつでもお姫様抱っこで運んであげようじゃないか」

 暑さにヘバっていない面倒な息子が、白い前髪をかき上げながら白い歯を光らせた。

「あの、父上。いい加減シャインを弔っ(とむら )てもいいですか。静かに眠れるように」

「面倒だと思う気持ちはわかるけど、血の繋がった兄弟なんだからな」

 しかも手をかける段階をすっ飛ばしてやがるし。シェイのなかでシャインが亡き者になっているじゃねぇか。

 シェイは悲しそうに残念です、と呟いたぜ。暑さで制裁(せいさい)を加える体力もなくなってんだろうな。

「さてコーイチ。そろそろ近くの町に着くのだけれども、この砂漠の地名は思い出せて?」

「あぁ、あったな。そんな地名クイズ。別に今回はよくね」

 ダレながらなかったことにしようとしたら、電流が俺の横を駆け抜けた。

「そろそろ本気で当てるわよ」

 赤い瞳が()わっていた。

「いや、当たったら死ぬからな。デッドのときみたいにシャレじゃ済まなくなるんだからな」

 俺は手でどうどうとジェスチャーしつつ、ゆっくりと土下座の態勢に入った。スネが砂の沈むのを感じるが、気にしてなんていられねぇ。

 腰の低さにおいては定評がある次期魔王、コーイチ・タカハシだぜ。うぐっ。

 頭をヒールの踵で踏まれちまった。チェルはご機嫌斜めだな。

「次の場所で地名を言い当てられなかったら、靴を舐めてもらうつもりでいるわ」

「わっ、わかりました。どうか怒りをお納めください」

 俺が必死に叫ぶと、どうにか足をどけてくれたぜ。ひょっとして暑さでイライラしているのかもしれねぇ。しかし、次は靴を舐めなきゃいけないのかぁ。

「おとぉ、大丈夫ぅ。あたいは気にしないけどぉ、見ていて情けないよぉ」

「身体がフラフラしているフォーレよりはよっぽど大丈夫だからな」

 しかし、家族総出でくる必要はなかったかも。

「ははっ、我がオヤジながら酷い醜態(しゅうたい)だ。ミーの沽券(こけん)に係わるから、控えてくれよ。ちなみにこの砂漠はデザート・ヴューさ。頭に刻み込んでおくといい」

 シャインはいちいち神経を逆なでやがるぜ。けど、妙に元気だよな。

 訝しく思いながらも、近くの町へと早急に向かっていった。

 早いとこ、フォーレを屋根のある所で休ませてやりてぇぜ。

 灼熱のなか、暑苦しいほどご機嫌なシャインの戯言(ざれごと)を聞き流しながら、重たい足取りで砂漠を進む。

 そしてついに、俺たちは町を見つけ出したぜ。ボロボロの土壁でできた四角い家が、ブロック状に並んでいる。

 道路は外の砂漠と変わらず、踏めば足を取られる砂だ。町の奥には緑が見え、オアシスもありそうだった。

「助かったぜ。けど、かなり(すた)れてねぇか。昼間だっているのにどこか雰囲気が薄暗れぇし、人っ子一人いやしねぇ」

 寂しげに風が吹いては、道路の砂を運んでいくぜ。人なんて住んでいねぇんじゃねぇか。

「おかしいわね。小さめとはいえ、オアシスを拠点(きょてん)としている町よ。そう簡単に活気を失うはずはないのだけれど」

 チェルも疑問を感じてやがる。知っている情報が少し、古かったのかもしれねぇ。入るべきか、否か。

「おとぉ……日陰(ひかげ)ぇ……」

 フラフラなフォーレが縋るように見上げてきやがった。町が見えてからアクアの水を抑えたからな。ためらっている余裕なんてねぇか。

「とにかく休める場所を先に探すぞ。事情は後から知ればいい、行くぜみんな」

 いつになくヨレヨレした返事がバラバラに響くのだった。

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