184 広がる砂原
色々あったがどうにか落ち着いて、魔王城の建築を再開したぜ。骨組みをどうにか建て終え、さぁ内装に取りかかるところだ。
骨組みの時点で広大すぎる。完成を想像すると寒気を感じちまうぜ。
部屋の詳細、把握しきれるかな。
ヴェルダネスの村人も、目まぐるしく変わる環境に慣れてきたように見えた。まだまだぎこちないところはあるけどな。
ただ俺が死にかけたことが噂で伝わったのか、顔を合わせるたびに心配された。
一応、俺は村を侵略した魔王なのにな。苦笑いしつつも、どこか嬉しかったぜ。
もちろん、例外もいるけどな。ススキは俺を見て舌打ちしやがったし。とてもとても残念そうにな。
ホント、恨まれてるわ。
そんなこんなでまた三ヶ月が経過した。イッコクに転移してから三年三ヶ月、イッコクのヘソにきてからは一年三ヶ月だな。
子供たちの成長も順調で……とまではいかなかった。
エアの身長が伸びなかった。まるで成長が止まったかのように。
ステータスチェックで数値が上がっているから、止まってはいないんだけど。けど、身体の方は成長しなかった。
スーグルとの戦いで傷ついた後遺症かもしれねぇ。健康に支障はなさそうだけど、心配しちまうぜ。
まぁ、エア以外は九歳ぐらいまで成長したけどな。体格に少しずつ個性もつき始めてきたかな。まだまだ些細な違いだけど。
そして地下鉄は、南西へと線路を伸ばしたぜ。
肌を刺すような陽射しが照りつけてくる。ジッとしているだけで汗が身体中から出てくるぜ。
「あっ、あぢぃ」
特に頭が暑ぃ。頭皮に直接ダメージが刺さってきている感じだ。
一面に広がる砂原は肌色で、地面が波のようにデコボコしているぜ。歩くだけで足が砂に沈む。
空気が暑さで揺らめいている。こいつが陽炎《かげろう》ってやつだな。熱したフライパンの上みてぇだ。冗談抜きで焼けちまう。
あごを拭うだけで腕に汗が伝うぜ。
「ツラそうね、コーイチ」
「チェル、なんでそんなに涼しい顔してんだよ。暑くねぇのか」
シレっと立っているチェルが恨めしぃ。
「暑くはあるけど、コーイチほど酷くは思わなくってよ。今回は留守番するべきではなくって」
見下すように微笑みやがった。コッチは死ぬほど暑いっていうのに、楽しんでいるように見えるぜ。
「ジョーダン。留守番なんてしていられねぇよ。なんたって、俺は全くもって平気なんだからな」
啖呵を切って笑ったら、眉を八の字に寄せられちまったぜ。まるで手のつけられない赤子を、どうあやそうか困っているみたいだ。
「なんでそんな顔すんだよ。それに、みんなだって暑いよな」
居心地が悪くなってきたから、俺は子供たちに話を振った。
「そぉだねぇ。この暑さは萎れて枯れちゃうよぉ。アクアぁ、お水ぅ」
「キャー、フォーレ。すぐにお水を出すから、枯れないで!」
ゼェゼェ息をするフォーレは本当に危機的だ。アクアが慌てて水をぶっかけるジュワァァと水蒸気があがったぜ。どんだけ熱を取り込んでんだよ。
「あぁ、ちべたぁい。気持ちぃ……けどすぐにぬるくなるぅ」
アクアの処置も一時的でしかなかった。てか、俺も水を頭から浴びてぇ。
「珍しく情けないな、フォーレ。暑さなど心頭滅却すればどうとでもなる」
「顔から汗を流さずに言えるようになるといいね。熱風も一興だけど、今はツラいかな」
グラスが意地を張り、エアが苦笑した。二人とも顔の汗が凄いことになっている。
「デッドあーつーいー。何とかしてー」
「暑いなら抱き着いてくんじゃねぇ、余計に暑ぃわ! 服もベタついて気持ちわりぃしよぉ!」
「どこに行っても仲がいいですね、あなたたちは」
デッドがヴァリーを引きはがす様を、シェイが冷めたい目で見つめていた。いや、暑さでダレてツッコむ力がないだけかも。
「バラバラね。コーイチの留守番どころか、今回の旅行を取りやめることをお勧めするわよ」
「一応、視察だからな。気持ちはわかるけど旅行じゃないからな」
ほとんど旅行気分なのは間違いないけど、視察と旅行の間に一線が引かれているんだからな。
「まぁまぁオヤジ。男はレディの言うことを黙って聞くものさ」
シャインが涼しい顔をして間に入ってきやがった。
「今回の旅行はミーとレディたちで行く。そうすればヘバっているオヤジは休めるし、グラスは暑苦しいやせ我慢をしなくてよくなる。デッドだってヴァリーに抱き着かれて暑い思いをしなくなる。完璧じゃないか」
あぁ、完璧だよ。完璧すぎてどこをどう修正していいかわからないくらいだ。
あまりの言いように目を細めちまったぜ。チェルも頭を抱えているし。
「チェル。みんなで行くぜ。町はどっちの方角にある」
「向こうよ。今回もテストをするからそのつもりでね」
チェルが町のある方向を指差しながら、地名を尋ねてきやがったぜ。
今回もわからねぇけど、慌てふためく余裕もねぇ。
砂漠は、諦めようかなぁ。




