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俺が異世界で魔王になって勇者に討伐されるまで  作者: 幽霊配達員
第2章 建築!!魔王城『タカハシ』
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183 一番高い城

 家族の慌て具合から俺は、そうとう危ない状況に陥っ(おちい )ていたようだ。

 まっ、みんながオーバーすぎるだけな気がするがな。

 ここ三日は忙しかったぜ。入れ替わり立ち代わりに俺の元にきては、世話を焼いたり甘えたりしてきやがったぜ。

 アクアとヴァリーが前者で、グラスとシェイとが後者だな。チェルとフォーレは両方だから、ホントに忙しいぜ。

 特にチェルから愛を感じるけど、調子に乗るのも怖ぇかな。

 なかなかベッドから出してもらえないから困った。出歩くのでさえ自由にさせてもらえないとは。

 もう大丈夫だし、身体が(なま)るから自由にさせてほしいんだけど。一人の時間が恋しいぜ。

 散歩するにも誰か一人はついて回る始末だしな。

 デッドは普段道理にふるまおうとしているけど、どこかぎこちねぇ。自分のやっちまった失敗だ。そう簡単には割り切れねぇか。

 シャインは普段通りだな。俺から接しない限り距離を置くし、姉妹や村娘たちに色目を使ってやがる。

 まぁ、みんなも慣れたもんだからいいけど。

 エアもいつも通りだ。当たり(さわ)りなく接してくれるから、気が楽だぜ。

 気楽ついでにエアと一緒に遠出をする。他のみんな、特にチェルに大反対されたけどエアが説得してくれたぜ。

「大丈夫だよ。ウチが絶対に父ちゃんを守るから」

 堂々と宣言したことで、ようやく身を引いてくれたぜ。

 俺、そこまで頼りがねぇのか。

 ちょっとヘコんだりもしたが、俺たちはソル・トゥーレへと足を運んだ。

「んー、やっぱりここはいい風だね。いつまでも浴びていたいや」

 エアが両手を広げ、身体いっぱいを使って風を感じていた。黄色いショートヘアが揺れ、服がはためく。

 ニコニコと機嫌よく微笑んでいるぜ。

 乾いた空気に、舞う赤茶の砂塵(さじん)。遠くを眺めると太陽の塔が空へと向かって伸びていた。

「風はいいんだけど、太陽の塔がなぁ。どうも忌々(いまいま)しい」

 スーグルの死闘によるエアの負傷(ふしょう)。あの痛々しい傷に、覇気を失って眠そうな瞳。思い出したくもねぇ。

「そうかな。あの塔があるから、風が気持ちいいのに。スーグルのおじさんもいるだろうし」

「ちょっと待って、スーグル元気なの。俺らが来たこと、気づかれてねぇだろうな」

 反射的に塔の上を眺める。身体がビクってなって関節が固まったのがわかる。

「たぶん気がついてると思うよ。呼べば飛んでくるんじゃないかな。環境がいいから、あれくらいの傷も完治していると思うな」

「間違っても呼ばないでね!」

 またエアが傷つくところなんて見たくねぇからな。早く帰った方がいいのかも。

「えー、おじさんからもいい風を感じているのに」

 なんでガッカリしたように眉をひそめるの。エアが一番、痛い目を見ただろうに。

「それに、雲の上にはいろんな鳥が平和に飛んでいるんだ。ウチも父ちゃんを連れて、一緒に飛びたいぐらいだよ」

「ただでさえシャレにならない高さなのに、加えてアホみたいに強い敵がいるだなんて、俺ムリだからな!」

 さぞ飛びたそうにウズウズしているけど、俺の方は残機が何個あっても足りねぇよ。危険みたいだし、エアにソル・トゥーレの侵略を頼むのをやめようかな。

「それにソル・トゥーレの町もいい所だったし、文句なしだね。町の人みんなが鳥を大切にしているから、空はこんなにも自由なんだよ」

「空が自由ねぇ」

 意味がわからねぇと思いながら青空を見上げた。大きな雲が風に流されていく景色は、どこか自由に思えなくもない……かな。

 広いな。俺の存在が改めてちっぽけだと感じるほど、広大だ。地面に立っているってのに、空に吸い込まれそうだぜ。

「父ちゃんも、今なら飛べる気がするでしょ」

 声に振り向くと、歯を見せて笑っていた。飛べそうと思っていたのが怖いところだ。

「なぁ、ひとつ聞いていいか。シャインのことだけど」

「父ちゃんが危なかったときのことだね。言っておくけど、ウチも詳しいことは知らないよ」

 疑問に思っていた。フォーレが手を尽くしてもダメな状況を、何事もなくシャインがどうにかしたと。そしてそれを、エアが促し(うなが )たと。

「なんとなくシャインならどうにかできると思ったんだ。それとなく予感もあったし」

 エアの直感か。バカにならなねぇな。俺にも心当たりがある。スキル『ユニコーンホーン』なら、可能性はありそうだ。

「予感があったなら、エアも治してもらえばよかったのに」

 俺が死にかける前から予感はチラついていたはずだ。すぐに治った方が俺も安心できたってのに。

「あはは、死んでもお断りかな。シャインの治療は、なんとなく普通と違う気がするから。何っていうか、摂理(せつり)を捻じ曲げている感じかな」

「おいおい、だったら俺はいいのかよ」

 エアが言うからには、なんとなくだろうがホントのことだろう。俺の身体は大丈夫なのか。

「父ちゃんは特別だよ。魔王になるんだから、死にきるわけにはいかないもん。だからシャインにも、協力させたんだよ」

 言葉こそやわらかだったけど、強い覚悟で無理強いをさせたことが窺え(うかが )たぜ。みんなの心配ぶりから死ねないと思ったばかりだけど、今のでより死ねなくなった。

 魔王……かっ。器じゃねぇのはわかっているけど、引けねぇよな。チェルを魔王にはできねぇからな。そのためには、エアにも侵略地を与えなくちゃ。

「ソル・トゥーレがウチなんでしょ」

 不意に、心を読んだかのような言葉を放たれた。

「エア、また直感か」

 微笑みを作りながら問いかける。きっと表情は硬いだろうな。

 エアは口の端を吊り上げると、うんんと首を横に振る。

「アクアやデッド、シェイから聞いていたからね。侵略地をもらったって」

 黄色い視線が太陽の塔を眺めた。視線を追い、同じ景色を見る。

「太陽の塔って高いよね。ウチ、アレよりもっと高い城を隣に建てるんだ」

「ははっ、張り合うじゃねぇか。上るのが大変そうだな」

「大丈夫。魔力式のエレベーターのような物を作るから。楽しみだな、この空を支配できる日が」

 エアはデカい。俺が小さいことで悩んでいるのに、てっぺんより高い場所を見上げているんだからな。

「こりゃ、俺も縮こまっていられねぇか」

 苦笑すると、エアは支えるように微笑んでくれた。きっとこれからも頼りにしちまうんだろうな。

「帰ろうか。あんまり遅いと、みんなも心配しちまうしな」

「そうだね。名残(なごり)()しいけど、いつでもこれるからね。なんならウチがおぶってあげようか」

「できるんだろうけど遠慮(えんりょ)させてもらうよ」

 エアが潰れそうに見えるし、何より俺が情けないからな。

 俺たちは冗談を交えながら帰るのだった。


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