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俺が異世界で魔王になって勇者に討伐されるまで  作者: 幽霊配達員
第2章 建築!!魔王城『タカハシ』
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182 悪ガキ

「んっ……んんっ」

 (まぶ)しさに目を覚ますと、見慣れた天井が見えた。木目(もくめ)の模様がきれいで、明かりのついていないリビング電灯が見えた。

 カーテンから陽が差していてる。

 朝……にしては明るいな。大いに寝坊しちまったのかも。

「うわ、妙にだるいな。寝すぎたか?」

 身体を起こそうとしたんだけど、どうにもうまく起き上がれない。手足にうまく力が伝わってないみたいだ。

 いや、そもそも俺はいつ寝たっけ。記憶にねぇぞ……ん?

 頭に手を当てようとしたら、腕についている細い(くだ)を引っぱったことに気ついたぜ。視線を向けると点滴(てんてき)が傍に立ってやがった。

「ちょ、待て。なんで点滴がイッコクにあンだよ。フォーレあたりが作ったのか……」

 治療とかに興味を持っていたのはフォーレだったからな。恐らく合っているだろう……ん、その点滴が俺に繋がっている?

「マジで何があった」

 まぁ、フォーレのことだから害になる薬は作ってねぇと思うけど。

 腕に繋がれた管を見ると不安になるぜ。いや、ここは信じるべきか。

 とりあえず思い出せるところからいくか。

 頭を抱えながら振り返る。頭が少し痛いけど、気にしなければどうとでもなるな。

 たしか、エアが傷だらけで戻ってきたんだ。一晩経っても目が覚めなくて……

「でも昼メシの匂いを嗅ぎつけて目を覚ましたんだっけ。ほっとしたけど間抜けに思ったな。まっ、醤油の匂いはすきっ腹には強烈だかんな」

 ンで、ラーメンを食ってだ……

 不意にコンコンと、ノックの音が小さく響いたぜ。視線を向けると、言葉もないままデッドが入ってきた。

「げっ、ジジイ……」

「げっ、て。ここは俺の部屋だぞ。なんでそんな悲鳴が上がんだよ」

「っ……」

 デッドは俺を見るなり、顔をしかめて赤い視線を逸らした。言いにくいことでもあるかのように身体を縮こませている。

 変なやつ。普段なら憎まれ口の一つでも返してくるとこなんだが……まっ、無理もねぇか。デッドの顔見たらいろいろ思い出したからな。

「やってくれたなデッド。まさかあのタイミングで毒を盛ってくるだなんて」

 俺は微笑みを意識して、独り言のように言葉を響かせた。デッドの肩がビクリと反応する。

「ケッ、ジジイが弱ぇのが悪ぃんだろぉが。ただの痺れ薬で生死をさまよいやがって。バカやろうが……」

 俯い(うつむ )たまま、飾った言葉だけを部屋中にまき散らす。どこにぶつけていいか、わからないんだろうな。

 やれやれ、まさかホントに毒を盛られるとはな。しかも、死にかけていたのか。あぁ、だんだん思い出してきたわ。

 手足が張るような痛みに襲われたんだっけ。何もしてねぇのに、ジワジワとした痛みが全身に湧き上がったんだ。

 飯を二・三日抜いたら似たような症状に襲われたっけ。あれは栄養失調だったんだろうけどな。

 一番キツかったのは息できないことだったな。苦しいのに呼吸が全然できないでやんの。冗談抜きで死ぬかと思ったぜ。

 さて、どうしようかねぇ。見た感じ、自分のやらかしたことに怯えちまっているみたいだけど。

「とりあえずデッド、ちょっと俺の傍までこい」

 デッドは、また身体を震わした。俺の言葉が凶器にでもなっているかのようだね。ははっ。

 オロオロと逡巡(しゅんじゅん)しながらも、舌打ちを混ぜて歩いてきた。死刑執行される囚人のようなためらいだな。

 手が届く位置まで近寄ってきたが、顔を上げようとしねぇぜ。心情を考えると無理もねぇか。

「とりあえず顔を上げて、俺の目を見ろや」

「っ……見たらなんだっていうんだよ」

 逃げ道を探すような憎まれ口だ。そうでも言わないと行動できなかったんだろうな。震える視線が、どうにか俺をとらえたぜ。

「たいしたやつだよデッドは。俺を朝まで寝込ませるほど、ヘビィな一撃をくれるんだからよぉ」

 肩の力を抜いて、心がほぐれるように紫の髪を撫でてやる。

 目を見開くと、動揺に視線が揺れたぜ。

「……でだよ」

「ん?」

「なんで僕を怒らねぇんだよ! ジジイは死にかけたんだろぉが」

 叱られることを覚悟していたからこそ、理解できていないんだろうな。だから心が乱れて、感情の行き場がなくなって暴言が出ちまう。

「あぁ、俺は決めてたからな。デッドは叱らないって」

「はぁ、わけわかんねぇ!」

 だろうな。普通の子供を育てるんだったら、まずありえないだろ。子育てするうえで『叱らない』はやっちゃいけないことだ。

「デッド。俺はお前に、悪ガキに育ってほしいと思ってんだ。自分が常に一番で、周りのことを気にせずに威張り散らすような悪ガキにな」

 口の端を吊り上げると、デッドは間抜けに口を開いた。

「だから、俺が気に食わなかったらガンガン毒を盛ってきやがれ。俺が弱いことを恐れるな、全力でぶつかってこい!」

「ジジイ……テメェ何回死ぬつもりだよ」

「一回に決まってんだろ。勇者に討伐されるまでは死なねぇぜ」

 受け止められるかわからねぇが、逃げることだけはしねぇ。(まが)いなりにも父親だかんな。

「ケッ、ふてぶてしぃのか情けねぇのかわからねぇジジイだぜ。後で後悔しても遅ぇかんな」

 照れ隠しかは知らないが、酷ぇ捨て台詞をはきやがった。けど、赤い瞳にギラつきが戻ったな。

 デッドはそれでいいんだ。なんたって魔王の息子だからな。人々を蹂躙(じゅうりん)して、恐怖を与えられる強い子に育ってもらわねぇといけねぇ。

 子供たちのなかで一番向いているのがデッドなんだ。だから……

「おうよ。中途半端な手加減だけは覚えんじゃねぇぞ」

 ニヤリと笑って答えたぜ。また何かあったら発破をかけてやらなきゃいけねぇな。いやぁ、父親はやること多いねぇ。

「あぁそうだ。もう昼飯ができっぞ。ジジイは昼近くまで寝てたんだかんな」

「……マジで」

 朝にしちゃ明るいと思っていたけど、昼近かったのかよ。

 呆けていたらキヒヒと笑いやがった。してやられたのかもな。

「まっ、ジジイは寝てろよ。介護される老人みたいにメシを食わせてもらえっての」

「あっ、おい。俺は動けるからな」

「聞こえねぇなぁ」

 デッドは俺を見ようともせず、手をヒラヒラ振りながら出ていきやがった。

 

 この後、みんなが詰めるように俺の部屋にきて大変だったぜ。


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