180 効き目
おとーが倒れた。
油断したよぉ。まさかお昼に堂々と毒を仕込んでくるだなんてぇ。
でもデッドには目を光らせていたのにぃ、いったいどうやってぇ。
うんん、そんなことは後だねぇ。デッドはちょっと痺れるぐらいって言ったけどぉ、どう考えても致死量の毒を盛られているよぉ。
早く治療しないとぉ、おとーが死んじゃぁう。
「パパっ! しっかりしてパパ!」
青い瞳から涙をボロボロと流しながらぁ、おとーの身体をユサユサと揺すっているよぉ。
「アクア駄目っ! 揺すらないでぇ」
あたいが叫んだらアクアはぁ、怯えるように身体を凍らせちゃったよぉ。ごめんねぇ、怖がらせるつもりはなかったけどぉ、今は一刻を争うからぁ。
それに余計に毒が回るかもしれないからぁ、身体を動かされるわけにはいかないのぉ。
「ゴメン、アクアぁ」
「キャっ、フォーレ……」
肩からタックルするようにアクアの場所を奪い取るぅ。アクアを突き飛ばしちゃったけどぉ、気にかけている余裕がないよぉ。
服から試験管に入った解毒薬を取り出してぇ、おとーの口に流し込むぅ。
デッドがおとーに痛い目を見せようって言ってきてからぁ、あたいは警戒して解毒薬を開発していたぁ。
どんな毒がくるかわからないからぁ、何種類も用意をしたよぉ。
もちろぉん、取り越し苦労ならその方がよかったんだけどねぇ。ホントに使うことになるなんてぇ、ちょっと悲しいかなぁ。
「ケッ、解毒薬かよ。フォーレもご苦労なこったなぁ。ジジイなんかのためによぉ」
誰のせいでってぇ、ちょっとだけ思ったねぇ。けどぉ、すぐに気分が冷めたぁ。
デッドの憎まれ口は、震えていて弱々しく聞こえたからぁ。寧ろ哀れにも感じたよぉ。
だってぇ、自分の盛った毒に自分が苦しめられている感じだもぉん。
あたいは冷静になれたけどぉ、みんなは怒っているねぇ。荒い足音が聞こえたと思ったら、パァンって平手打ちの音が聞こえたのぉ。
「デッド! あなた何をしたかわかっていて!」
チェルだったぁ。言葉が刃物のように尖っているよぉ。
「何って、ちょっと痺れ薬を盛っただけだろぉが。ビックリするだけで死ぬような毒じゃ……」
「それは魔物にとってでしょう! 相手はコーイチなのよ! イッコクで一番弱い男なの! 毒の効き目も普通より酷いって、どうして考えられなかったのよ!」
言い切った後にぃ、啜り泣きの音が聞こえてきたぁ。ストンって膝から崩れ落ちる音もぉ。
「なっ……僕は、ただ……」
「ちょっとデッドー!」
デッドの声はしどろもどろでぇ、言いたいことが定まっていないようだったぁ。ヴァリーが悲痛な叫びをあげたよぉ。
おとー、チェルが泣いちゃったよぉ。おとーが心配で泣いちゃったんだよぉ。
苦しそうに身体が震えているぅ。その耳には今の音は届いているかなぁ。届いてなくてもいいからぁ、このまま死んじゃうのだけはなしだからねぇ。
解毒薬がなかなか効いてこなぁい。ポーションをかけて体力も回復させた方がいいかもぉ。
一本ポーションを振りかけたぁ。あんまり効果がなさそぉ。二本、三本と連続でかけるぅ。
……全然よくなる感じがしない?
「うそ、解毒薬もポーションも効き目が薄い!」
助け、られないかも。
不穏な言葉が頭によぎった瞬間、風邪を引いたかのように身体が寒くなって震えたよぉ。
「フォーレ! パパは大丈夫なんだよね。大丈夫なんだよねぇ!」
「父上、そんな……デッドォ!」
アクアが慌てふためき、シェイが怒りに叫んだ。
どうにかしなきゃ。おとーさえ治せれば元に戻せる。
「フッ、オヤジの悪運も尽きたようだね。しかし任せておきたまえ、プリンセス・チェルと麗しき姉妹たちはミーの手で幸せに……」
一人で冷静にラーメンを食べ続けていたシャインが何か言いだしたぁ。
「シャイィィン!」
シェイの怒りの矛先がシャインにシフトチェンジするぅ。情けない悲鳴と爽快な打撃音が聞こえるけどぉ、気にしてなんていられなぁい。
けど、他にどうすればぁ……
「フォーレ、父さんは大丈夫なんだよな。もう、フォーレしか頼れないんだ」
グラスが必死に懇願してくるぅ。でもあたいだってぇ、どうしていいかわからないよぉ。
視界が潤んで見えにくくなるぅ。ダメだよぉ、泣いていたら何もできなぁい。でもぉ……
「コーイチ……コーイチぃ……」
チェルはもぉ、おとーの名前しか言ってない。祈ることしかぁ、できないのぉ。
「ねえ、シャインだったら父ちゃんを、どうにかできるんでしょ」
悲観の空気で包まれていたリビングを、エアの一言が貫いた。あたいはぁ、おとーから気を逸らして振り向いたぁ。
みんなエアに視線を向けているよぉ。
シェイですらぁ、シャインの襟首をつかんで宙吊りにしながら振り向いているぅ。
「はっ、ははっ。何のことかな、エア?」
顔を腫れあがらせたシャインがぁ、視線を泳がせるぅ。
「とぼけるのもいいけど、このまま父ちゃんが死んだらシャインをずっと恨むよ。ウチだけは最後まで恨み続けるから」
「やれやれ、エアには敵わないな。すまないがシェイ、手を放してくれないかい」
「え……あっ、はい」
歯をキラリと光らせながらお願いすると、シェイは動揺しながら素直に従った。
「今回だけだぞオヤジ。男を救うのはね。エアに感謝することだ」
シャインがおとーの身体に触れるとぉ、眩い光を放ったぁ。
震えていた身体はぁ、安らかに収まったよぉ。
苦しそうだったのがウソだったようにぃ、穏やかな寝息を立てていたよぉ。
よくわからないけどぉ、おとーは助かったみたぁい。
よかったよぉ、ホントにぃ……
「ひっぐ……うわぁぁぁぁ!」
あたいは安心したのかぁ、悔しかったのかぁ、よくわからなかったけど大声で泣き叫んだよぉ。




