178 毒針
エアが神獣を一人で倒しやがった。
僕だって力があるし、ハーフアラクネの状態になれば壁にへばりついて戦うこともできたんだ。
スパ○ダーマンもビックリのアクションだってやれたんだ。手助けするどころか、直接トドメを刺すことだってできたはずだ。
けどジジイは危険だとかぬかして、僕の言うことなんて聞きやしねぇ。
僕の実力をなんて全然信じていやがらねぇ。腹が立つったら仕方ねぇぜ。
なのにエアがピンチになると、最弱のテメェが力量も弁えずに先走ろうとしやがる。父親だからってうぬぼれてやがんだ。
もう頭きたぜ。一度、立場の強弱ってやつを知らしめてやらねぇと気がすまねぇ。
僕が上でジジイが下なんだ。父親ってだけでデケェ顔してやがって。目に物を見せてやらぁ。
家に帰ってきてから、みんなエアのことで頭がいっぱいになってやがった。
ケッ、弱ぇクセに無茶するから死にかけんだよ。エアも身を弁えるべきだったな。
ただ自業自得だっていうのに、家族がみんなして心配そうにエアを見舞いがる。
ベッドで寝たきりなのは、ちょっぴりだけ不安になる。けどまだ、一日しか経ってねぇんだ。心配しすぎだっての。
魔王城の建築作業は休みになった。朝飯を食ってからすることねぇし、屋根に上って二度寝することにしたぜ。
僕は一人でもよかったんだけど、ヴァリーもついてきやがった。
「ケッ、さっさと目を覚ましやがれっての」
空へ向かって呟いた。隣ではヴァリーが座って、足を延ばしている。
「心配だねー、デッド。早くよくなるといいねー」
「はぁ? 別に心配はしてねぇっての」
ヴァリーは何を見てやがんだ。僕が心配するわけねぇだろ。
ムシャクシャしながら金貨を指でビィィィンと弾く。
「ンなことよりヴァリー、僕はいい加減ジジイに現実を見せてやろうと思ってんだ」
赤いツインテールを揺らしながら、不思議そうに顔を向けた。
「現実ってー、パパをボコボコにするつもりなのー」
「そこまではしねぇよ。加減が難しそうだかんな。ジジイ相手だと死んじまうかも知れねぇし」
別に僕はジジイが死んでもかまわねぇけど、ヴァリーや他の兄弟がかわいそうだかんな。チェルもなんだかんだで気にかけてやがるし。
僕はやさしいから手心を加えてやんぜ。
「じゃあどうするのー。クモの糸でグルグル巻きでもするー?」
「いンや。毒を盛るつもりだ」
キヒヒと笑うと、オレンジの瞳を見開きやがったぜ。
「ちょっとー。毒こそパパ死んじゃうよー。まだ一発殴った方が安全だよー」
ヴァリーの顔が迫ってきたから、ドードーと両手で抑えるぜ。
「落ち着けって。毒っていっても、ちょっと痺れるぐらいの弱ぇやつだかんよ」
口にしても、ちょっとビックリするぐらいだ。けどジジイのことだから、僕に脅威を抱くことぐらいはするだろぉよ。
「んー、そのくらいだったら大丈夫かなー。けどー、ホドホドにねー」
言葉を詰まらせながらも、ヴァリーは同意してくれたぜ。
待ってろよジジイ、とびっきりの驚きを体感させてやっかンな。




